第8話


本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります





00_ロゴ




―本隊上陸 2ヶ月前―





男のような声が、聞こえる。

「なあジェーン、今日はお前を殺した奴を探しに来たんだ。少し落ち着いたらどうだ?」


女のような声が、それに応える。

「いやだわジェーン、どんなときも喜びを忘れないのが私よ」


カップルのような声が、生気を失い静まり返る廃墟にこだまする。

「見てジェーン。素敵な廃墟に力強い緑と綺麗な白い雪のコントラスト。フフフ、あなたのピアノで踊りたくなっちゃう」


「こんなところで足を滑らせてもみろ。次は雪を殺さなくちゃならなくなる」


「いつもあなたは心配性ね。ほら、捕まえてごらんなさい」

声は、ふたつ。

姿は、ひとつ。






01_kk.jpg
細かなビジューが施された純白のドレス。

そのAラインが収束する腰には擲弾と、小型のガラス筒と、抑圧されたコルセット。

細くやわらかいブロンドの隙間からは、ゴーグルに革で歪に接がれたマスクが見える。

優しげなレースで編まれたな日傘の柄には、マスケット銃の台尻。


アンバランスの極致を体現したような存在が、ジャングルの中ひとり、くるくると踊っている。




常夏に降る雪。朽ち果てた部族の痕跡。怪しく匂う、まだ見ぬ宝玉。
その匂いを嗅ぎつけた招かれざる客たちにより、安寧はみだされてゆく。

もはやこの島に普通は存在せず、常識は通用せず、静寂は意味を成さない。



02_狂った踊り ただし、異常で非常識な騒々しい客人には、それ相応のもてなしが待っている。

「あー、そこの女? 止まるネ」

ジェーンを呼び止める声。

新たな声の主もまた、女であった。



03_ユーホァ 黒いドレス、黒いまとめ髪に黒いマスク。
黒尽くめに映える吉祥の結び飾り。
子供の頭よりも大きな錘には金色の龍があしらわれている。


中華の女人、清の暗殺者。名をユーホァと言う。




04_立ち話 「あら? あなたみたいな人、あの船にいたかしら?」

「船? 知らない。 ワタシここではじめまして。アナタ、宝玉を盗みに来たひとり? そうは見えないケド」

ユーホァがジェーンの服に視線をやる。
ジャングルにも廃墟にも溶け込めない、その真っ白なウェディングドレスである。

その格好で何かを盗み出すのであれば、あまりにも目立ちすぎる。


「まあ! ナタリアの言ってたことは本当だったのね! とっても素敵! 皆もきっと喜ぶわ!」


屈託無く喜ぶジェーン。英国女王の宝玉を奪う気概は感じられない。

ユーホァは呆れたように双錘をくるくると回す。

「ホントは背後からアナタ殺すつもりだたケド。どう見てもそれ宝探しする格好ジャナイ。宝玉取るつもりないナラ見逃してあげる」




05_挑発 「ホラ、さっさと島から出ていくネ」

指令があろうとも、無駄な殺しはしない。今日上陸した者たちの元々の目的は島の地質調査だと聞いている。
調査も探検も不向きな目の前の異物は放っておいても何もできないだろう、と言う判断だ。


しかし、ユーホァの容赦をジェーンは違う形で捕らえていた。




「ころす? わたしを? ねえジェーン、この人、わたしを『ころす』って 」

「殺す? お前を? こいつがお前を殺すのか?」

「ええ、そう、わたしをころすって」


しとやかなジェスチャーをしていたジェーンの指が、わなわなと震え、硬く握り締められる。

その拳に籠められた意味は、明らかな敵意。

愛するものを、私(ジェーン)自身に害なすものを徹底的に排除する殺意だった。

腰に提げたガラス筒の先端をマスクに挿入する。側面には「OPIUM」の文字。

マスク内に供給された蒸気を一身に吸うと、ジェーンの視界はヂリヂリと明滅した。

急速に持ち上がる吐き気のような怒りが、喉から煙と共に噴き出した。





06_怒り心頭 「殺させない! お前をもう二度と! ジェーン(わ た し)をもう二度と!!!」


フルフェイスのマスクから顎がはみ出るほどの怒号と共に、ジェーンがドレスの裾を割り開く。

煌びやかな絹の合わせ目から無骨なクリノリンが展開し、鎌首をもたげる蛇のように二丁の機関銃が顔を出した。


「それがアンタの正体。面白いネ」

「ウオオオオオオオオオ! コロス! コロスモノハコロスゥゥゥゥ!」

「でも……阿片の強烈な匂い、それだけは許さナイ」


07_乱射 日傘をライフルめいて持ち替えたジェーンが、髪を振り乱しながら突進する。

一斉掃射。3つのマズルフラッシュがユーホァに向けて放たれる。



だが、ユーホァは既にそこには居ない。

最初の弾丸が空を斬り、地面を叩く前にユーホァはジェーンの真横にまで迫っていた。
あたかも神仙伝が如く地を縮めるように懐まで滑空したユーホァは、すれ違いざまにジェーンに双錘を叩きつける。
後頭部と腰椎へ互い違いに鉄球がめり込み、限界を超え砕かれる。



最終的にジェーンの体は、振り回された人形のように軽々と宙を舞い、


08_無双乱舞


ユーホァの後ろに落ちた。











09_死体 破壊されたジェーンの頭部からマスクが剥がれ落ち、無精髭が覗いている。
マスクに刺さったガラス筒の"OPIUM"とは、阿片である。


英国はインドで栽培し製造した阿片を清に密輸し、組織的に販売して収益を得ていた。
阿片を禁じていた清との間で戦争となったが、勝利した英国は清に耐え難い不平等条約を結んだ形で終結させた。



「アンタが死んだ女をいつまでも想うは勝手。ダケド、牙向く相手、間違えたようネ」



阿片の効用は使用者に抗えぬ恍惚をもたらすが、常用はやがて精神錯乱を伴う。










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第7話


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000_自己紹介


ムーチョグスト!こんな辺鄙なブロゴを読んでる君の名前を教えてよ!


身長は?体重は?好きな体位は?

あ、自己紹介がまだだったね。俺サマはエル・カクタス!

君と同じくクソ辺鄙な島で七面鳥を撃ちにきたガンマンさ!


この島にはコヨーテもキツネもいないけど、とっても美味しいターキーが狩れるって聞いてさ!
もう俺サマ ギンッギンなわけ!

おっとそろそろ獲物の登場だ。

アミーゴスはそこで事の一部始終を見守っていてくれ!では5分後にまた会おう!チャーオ!





































00_ロゴ

―本隊上陸 2ヶ月前―


島の中心に向かって深くなる雪は、もはやここに至りブーツの足首を隠すほどにまでなっていた。

ナタリアは林を迂回したところで坑道を見つけた。

昔はここも何かを採掘していたのだろうか。単にジャングルを安全に通り抜けるために作られた地下通路なのだろうか。

上陸してから今まで雪は一度も降っていないが、この寒さである。

何度も降ることがあれば、この坑道すら埋もれてしまうのではないか。


かつて繁栄を極めていたであろう密林を、存在していたであろう僅かな文明の痕跡を、雪は静かに白く塗りつぶしていく。

本能的か、計算の果てか。どちらにせよ、ナタリアは雪を避けるように坑道を選んだ。


プロイツ帝国で産まれ、大公国で育ったナタリアである。寒さにも、雪を走ることにもめげることはなかったのだが

ここに積もっている雪は、踏みしめるたびに精神力が削り取られていくようだった。

もうすぐで坑道を抜ける。トンネルに採掘するための横道が無かったと考えると、単にこれは通路なのだろう。

一刻も早く宝玉を見つけて、この不気味な雪の島から離脱したい。


「そういう前フリもうみんな聞き飽きてると思うんだよねー!!!!」




01_オッラー

トンネルを抜けて、目に飛び込んだのは、緑の仮面を被った男だった。

粗雑なソンブレロに鋳鉄でできた三連銃の意匠。赤いマントに緑の仮面。その奥に無精ひげ。
メキシコ人の様な出で立ちで、手には何らかの改造が施されたマチェーテを携えている。

「やっとバトル回になったと思ったら前日譚なんて、構成メチャクチャ過ぎない? アミーゴスついていけてる?」

その言葉はナタリアには向けられていない。どこか明後日の方向に対して叫び続けている。だが、自分の存在について言及しているようだ。

「そっか君には自己紹介まだだったよねー!」
不意に首が真反対であるこちらを向き、あとから体が反転した。





02_エルカクタスだよ
「iHola! 俺サマ、エル・カクタス!元気かいセニョーラ!南の島での冒険、実にご苦労サッマ!」

エル・カクタスと名乗るその男は、馴れ馴れしくナタリアの肩を叩いた。
思わず飛びずさるナタリア。


「でもー?島の中心に向かっている通路なら、その先に何か素敵なモノでもあると思ったー!? 残念ハズレー!!」

さっきまで虚空に向かって叫んでいた男が、今この瞬間、坑道の軒先に腰掛けて嗤っている。

「いや、大当たりかな?俺サマと出会えた君は実にスエルテなセニョーラだ! なにせ俺サマは――」

いったいどうやって近づいた?
その上マチェーテを持っている状態で肩を叩かれた。もし相手に攻撃する意思があれば背後から容易に切り殺されていただろう。

「ルズデラモンタニャ……コヒヌールの在り処を知っているからネ!」

ナタリアは即座に腰の鎌を抜き、分銅を構えた。





03_危ない危ない
「あなた……なぜそれを!」

「それを?それをなんだい?『なぜそれを知っている』かい?察しが悪いなあセニョーラ」

呆れたように手をひらつかせ、ナタリアを嗜めるエルカクタス。

「宝探しに無人島に来て、先客が居たんなら、それはもう先回りされたってことサ!」

瞬間、ナタリアから分銅が放たれる。サイドスローで投げられたそれは、挑発的に掲げられたエルカクタスの右腕に絡みついた。








04_絡め取り
「だったら話は早いわ……。あなたが持っているのか、もうこの島に無いのか、洗いざらい教えてもらうだけ!」

「イッホレ! なかなかやるじゃないか!」
坑道の軒に立つエルカクタスを引き倒し、鎖で捕縛する算段のナタリア。

しかし、いくら体重をかけても、まるで坑道の柱そのものと綱引きをしているかの如くエルカクタスはびくともしない。

「デモォー? でもでも生者の攻撃は俺サマには効かないんだよなー!?」

鎖が食い込んだ右手を、ナタリアごと引き上げるエルカクタス。

"綱引き"の主導権はいとも簡単にくつがえり、ナタリアは不均衡なシーソーのように、無抵抗で釣り上げられてしまう。


















05_引き寄せ
「そしてここは無人島……無人とはすなわち無法であることと同じ!
 甘い蜜に誘われてこんなトコまで来ちゃった愚か者の声は、殺されようと!犯されようと!誰にも届かないってワケさ!」

無様に釣り上げられたナタリアの顎に、鎖をかけるエルカクタス。

手で振りほどくよりも速く、鎖を首の後ろでクロスする。ナタリアの全体重が自らの頚椎に架かった。















06_ハング
「グッ……ググゥ……ッ!!」

体をよじる。両脚が空を蹴る。だが、自身を支えられる物はどこにもない。

視界が明滅し、意識が急速に混濁する。
――ああ、こんなことなら、真面目に働いて、プロイツに残した弟に、もう一度会いたかった――
















07_絶命
エルカクタスがヨーヨーで遊ぶかのように鎖を上下に揺さぶると、3回目でゴギリ、と鈍い音がした。

「モノローグに突っ込むのは野暮かもしれないけど、大丈夫!死者の日にまた会えるさ!」



















08_連れ込み
さあ!どうだったかな俺サマの華麗なる鹿討ちは!? あれ、七面鳥だったっけ?

気に入ったら速攻イイねしてRTしてシェアしてくれたまえ!

じゃ! 俺サマは、ちょっと用があるから!
狩った得物が、弛緩してるうちに、ヤること、あるからさ!(カチャカチャ)



その、なんだ、ブロゴを閉じろ!!!


アディオス!







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第6話

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―本隊上陸 2ヶ月前―


林を走る体が重いのは、ぬかるんだ地面のせいでも、常夏の島に似つかわしくない寒さのせいでもなかった。

なにか、合わない酒を飲まされたような気分の悪さがヴァイスを蝕んでいる。

財産を守るため、かつての家主が仕掛けた罠や毒が遺跡に残っていることは少なくない。

だが、そんな死者の最後の抗いを切り抜け、すべてをつまびらかにするのがトレジャーハンターである。


そうであるはずのヴァイスを襲う、どこまで走っても収まらないこの体の内側がかき回されているような倦怠感は毒によるものではないことは確かだ。

原因不明の体調不良か、焦燥感か。好事家が跳び付く依頼品を廃墟や遺跡から何度も盗み出してきたベテランが、ルーキーのような弱音を吐く。
「さっさとおさらばしたいぜ……」

01_ヴァイス ましてや今回、自分から仕掛けた勝負がある。
一番に女王のダイヤを掴み取り、島を脱出する必要がある。

勝者となれば、一生遊んで暮らしても使い切れない富が手に入る。



ヴァイスは幾重にもかさなる蔓と藪を抜けてやっと開けた場所に着いた。

だが、そこには既に先客が待っていた。


02_バードン 異形の者。

アルスターコート、傾斜のついたブリムのトップハット、黒革の手袋、モノクル、杖。
紳士の黒に身を包んだ『圧力計』が、こちらを向いた。


「おや、おひとりですか?」


03_邂逅 「この島の地図を持っている者は必ずここにたどり着く。あの男の言っていたとおりでしたね」

圧力計は静かにうなずくと、ヴァイスのほうに歩き出した。

「大勢から選ぶつもりでここで待っていました……ひとりなのは残念ですが、ふむ。なかなか大当たりでは?」


04_挨拶 「申し後れました。私はバードン。学者をしております」

バードンと名乗るその男は、ヴァイスに向かってうやうやしく頭を下げた。

「貴方と目的は違いますが、私も探しものをしていましてね?」
品定めをするようにあちこちを見回すバードン。
ヴァイスはあまりのことに動けずにいる。

05_品定め 「身長 体重 骨密度申し分なし。心拍数の上昇を確認。落ち着いてから測れば良いか」

言葉を発する、視線も分からない異形の頭。
ましてや言っていることの意味が全く分からず、ヴァイスは独り言をさえぎる事もできない。

「しかし、ヴァイス(欠陥)とはいくぶん不安が残りますね。どこが悪いのでしょう。 関節? 内臓?」

口に出してもいない名を呼ばれた。
一方的に情報を知っている、得体の知れない格好の男。

同業者か、敵か。いずれにせよ秘宝探しを妨害されることだけは間違いない。







06_とびかかり 両腕を振り上げて、手甲に隠れたジャマダハルがその刃を露出させる。

「なんだ、頭か」

ヴァイスはバードンに向かって飛び掛った。


07_お勉強 「では、お勉強の時間だ」

ヴァイスのジャマダハルが、バードンがそれを避けるより速く鳩尾を深く突き刺す。


否、バードンがそれを許したのだ。

真芯を捕らえ、伸びきる左手。だが、その腕に肉を突いた感触がない。

バードンの体はヴァイスの左腕と重なりながら、そのままぬらりと右にスライドした。

「な……!?」

08_杖クイ 「何が斬れましたか?」


バードンがジャマダハルに杖を沿え、雲の巣をはらうように軽やかに去なした。
瞬間、馬車に追突されたかのように左腕が吹き飛ぶ。

体勢を崩しながらも持ち堪えるヴァイス。だが、もう二撃目を突く握力がない。


「素晴らしい! 折れませんでしたね? 耐久試験も合格だ」


09_ネックハング 「墓荒らしをしているのなら、墓守の怖さを知らぬわけもあるまい?」

モーメントを無視した体勢からの、無造作なネックハング。
ワイングラスをランプにかざすようにヴァイスの長身を持ち上げる。

「顔」と思われる部分の中央についた針がわずかに振れるたび、万力のような強さで喉元を締め上げられてゆく。


10_高い高い 「宝を守っているのも……っ、この毒も……、おまえなのかっ…っ!」

ヴァイスは掴み上げた腕に何度も刃を突き刺してみるが、バードンは意を介さず、語りかける。

「毒? 毒は知らんな。だが……ああ、若きレイダーよ。確かにある。ここには宝が、英国女王のダイヤ、コヒヌールが」

漆黒のアルスターコートの腕が風船細工めいてパンパンに膨らんでゆく。

「だが、それに群がる君たちもまた、私にとっては喉から手が出るほど欲しいんだ」

足は地面を離れ、高く高く、強く強く締め上げられる。

「私は見つけたぞ!」

ヴァイスの黒目が瞼の裏に隠れ、抵抗を止めた両腕がだらしなく垂れ下がった。

「秘宝を追い求め! 秘境に挑むことのできる! 野心に溢れた健康な肉体を!!」

11_絶命 バードンはヴァイスに顔を近づけると、自らの圧力弁を開放した。

体中から気化したグリセリンが噴き出し、靄がヴァイスを飲み込んでゆく。
張力を失ったアルスターコートが、しぼみながらゆっくりと横たわっていった。


12_のっとり 立ち込めている靄の中から、膝まづいたシルエットとが現れ、咳払いが聞こえた。

それはすっくと立ち上がると、地面に落ちていたコートを拾い上げた。













13_のっとり完了 「素晴らしい」

異形の男は、林の奥に姿を消した。









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第5話

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―本隊上陸 2ヶ月前―


「うぅ・・・苦手だこの寒さ・・・」
雪柳は走って緩んだケープをいま一度締めなおした。
森の生き物は突然の雪に怯え、足跡すら見かけない。

01_木の上 木の上から、島を見回してみる。獣人の身には容易いことだ。

風に匂いは無く、木々は急激な降雪に色を失いつつあった。


そしてこの雪は、島の中央に向かってますます深くなっていくようだ。


故郷に降る雪とはまるで違う。体感の寒さだけでなく、妙な「寒気」が産毛を逆撫でする。
そしてそれ以上に、何か嫌な予感を雪柳は確かに感じ取っていた。


「――動くな」
木からするすると降りたところで、背後から急に野太い声がした。

02_発見 「私はヴァルター・フォン・クロンベルク。帝国軍人である。命令により排除する」
ヴァルター、そう名乗る男が剣を構えた時には、雪柳はその身を反転させ大きく飛びずさった。

「疾いな。だがこちらは名乗っている。そちらの名と目的を」
雪柳はヴァルターの言葉を待たず襲い掛かった。

ガギャリとガントレットが軋み刃こぼれが小さく発火する。その閃光が消えるより速く二人は二刃、三刃と斬り結んだ。
雪柳の眼光が糸を引く。仰け反った体躯をばねにしてもう一撃を加える。

03_戦闘 戦闘には自信があった。雪柳は自警団でも一番のミリティア・ガントレット使いだった。
カミソリの如き先端のクローは切れ味を失いやすい。
しかしその度にガントレット後部のバルブが自動的に開き、こぼれた刃を修復することで分厚い毛皮を、太い骨をガーゼのように裂いていく。


しかし全ての攻撃は、ヴァルターの両腕とそこから伸びる無骨なロングソードによって去なされ、スケイルアーマーにすら届かない。

(肉体に傷がつけられないなら、数で圧倒して逃げよう・・・・!)




斬撃が三十を越した後、先に体勢を崩したのは雪柳のほうだった。

04_逡巡 すかさずマウントを取るヴァルター。逆手に持った剣が喉元にむけ振りかぶられた。


「……っ」


一瞬の逡巡。雪柳は機を逃さなかった。

「ぐるるるああああああああああああ!」


ガントレットの廃熱を顔に押し当て、肘でヴァルターを突き飛ばした。

05_脱兎 「待てっ!……いや……」
ヴァルターは突き出した手を下ろすと、その場に立ち尽くした。




バーグリヒト奪取計画。

祖国の言語で【山の光】と呼ばれた幻の宝玉。

鉱石採掘場で偶然発見された大粒のダイヤと思われていたそれは、ただの宝石ではなかった。

・・・・・
核電金剛石――そんな小さな石ひとつに熱を上げて、帝国は今再び略奪者にならんとしている。



騎士道とは守るべき者のために戦うはずではないのか。

宝玉の奪取と解析は帝国の科学力を飛躍させるといわれているが、その斥候という命のために歳若い獣人を殺すことがあって良いのか。それはもう蛮勇ではないのか。

プロイツはもはや元の大公国のみならず、世界そのものから乖離しはじめている。




06_祈り 優秀な戦果を挙げた名誉ある血族にのみ許される、紅の十字兜。

それは神の受難と国の勝利を顔に刻まれたことを意味している。


「主よ、祖国よ。貴方は邪まな者の悪意を砕き正義を守るために剣を使うのを、私にお許しになった。
どうかこの下僕のこころを善に向けさせ、いかなる剣も、不正に他人を傷つけるためには決して使わせないように導きたまえ」

ヴァルターはゆっくりと、無骨な剣を十字に相対させて祈った。











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第4話

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???の独白 ―本隊上陸 2ヶ月前―


もうすぐ島が見えるころ、というところでフードの男が聞いてきた。
「なあ、アンタはどこでこの話を聞いたんだい」


私は、酒場と答えた。

「酔っ払いの与太話を信じてここまで来るとは、アンタも相当肝が据わった人だな」

私は、はにかんで何も答えなかった。

ヴァイスと名乗るこの男は、この中では一番の経験者のように見えた。
両腕の碗甲からは、細身の刃が見える。

「そうね、最後の港でこのボロ船を見たときは引き返そうと思ったもの」


私が口を開かずにいると、その空白に北欧の顔立ちをした女が話に乗ってきた。

ナタリアと名乗るこの女もまた、戦闘に優れているように見えた。
腰に提げた鎖鎌の分銅は護身用のサイズを大きく超え、囚人の足枷じみた質量を主張している。

私は、名前から大公国人かを訪ねた。

「育てた人がロシア人だったからナタリアと名乗っているけど、産まれはプロイツなの。あなた、学があるのね」



この「ボロ舟」には、私とヴァイスとナタリアの他に4名が乗っている。
銀髪の獣人、オスマン系の顔立ちの少女、ペストマスクをつけた呪術師風の男、髭面に革の仮面とウェディングドレスを身につけた中年男。

「他の奴らが気になるかい?」

私は、まあねと答えた。

「犬耳・・・雪柳、だっけか?あいつは優しいが気弱そうなヤツだ。キギとかいうエスニックなガキも悪いやつじゃない。だがあの2人は俺から言わせりゃ足手まといだ」

「ペストマスクの野郎、アダムは……ありゃ変人だ。頭は良さそうだが、話が通じない。一番うしろの、あの見るからに女装のオッサンは……俺もまだ話しかけてない。武器も持たずに何しに来たんだ?」

私は、なるほどと相槌を打った。
悪くない観察眼だが最後の男からは粗製火薬の臭いがする。丸腰ではないはずだ。
と、その女装男がにわかに立ち上がり、船が小さく傾いだ。両眼の遠眼鏡をかざして一言、綺麗ねと呟いた。

「マジかよ、雪が降ってるじゃねえか!」

私は、珍しいこともあるものだと返した。





00第4話ロゴ



係船柱に小さなボートをつなぎ、各人が荷物を背負い込んだ。




01踏みしめる ブーツソールが雪と泥に沈み込む。南国には稀有な寒さが肌を刺す。だが、そんな天候が捜索隊の意気を止める筈もない。



02先遣隊 捜索隊が依頼主であるファラメルディアス=フォン=ザクローゼン貴族議員から与えられた任務は島の地質調査および文明の同定であった。その中には「同定のために必要と判断した現地物品の回収」が含まれている。


そしてこれこそが50年前に何者かによって持ち去られた大英帝国のダイヤ、クーヘヌールの奪還であることを、捜索隊の誰もが知っていた。



03アダムとヴァイス 「感じるぞ。マハトマ、偉大な魂の!その迸りが!」
アダムが諸手を挙げ、全身を振るわせた。

「まさか同意見とは思わなかった。そのとおりだよアダム。ここは無人島だがごく最近に誰かが来ている……こりゃあ与太話じゃなさそうだ」

ヴァイスは船の上で私に自分が腕利きのトレジャーハンターであることを教えてくれた。
多くの経験と直感が、彼を後押ししているのだろう。

「宝玉はまさしくこの地に在ろう。とは言え認識ができねば真理に至れぬ。ああ、一刻も早くこの目に焼き付けたい」

アダムは山の向こうを杖で指差し、ヴァイスもそれを目で追っていた。





04ナタリアヴァイス 「こんな処まで来たんだもの、無駄足じゃ帰れないわ。絶対に宝玉をネックレスにしてやるんだから」
「強欲なヴィクトリア女王も居たもんだ」
2人は顔を見合わせ、微笑んでいた。






 05ナタリアジェーン 「貴方はどうなの、もし宝玉が見つかったらどうしたい?」
ナタリアが女装男に聞いていた。
「ジェーンよ。私は私を殺した犯人を捜しているだけ。捜索の足掛かりになる報奨金が貰えればそれでいいわ」

「意外に無欲なのねジェーン、貴方が見つけたら私が報奨金の倍払って買い取ってあげる」




06ヴァイスの提案 「・・・なあ、確かにそうだ。ここに本当にヴィクトリア女王のダイヤがあるのなら、単なる地質調査にしては破格の報奨金も端金だ」



捜索隊は、当たり前の結論に達した。
これから全員が探す物は、一介の貴族議員が支払う報奨金よりも遥かに価値のある宝であるという事実に。



07map.jpg ヴァイスが地図を広げ、全員がそれを覗き込む。

「誰かが一番にこの島に眠るお宝を見つけ出し、ここに戻って、この船でひとりで島を脱出する」

ヴァイスは地図の西、現在地である岬を指差した。

「置いていかれた者は依頼主の救助を待ち、勝者はその間に行方をくらませるってことね」

「そのとおり、負けたら恨みっこなしだ。どうだみんな?」

ヴァイスが問いかける。にわかに張り詰めた空気に戸惑う者は居ても、反論する者は居ない。

「こうなることは内的直観が告げていた。もとよりそのつもりである。無論、宝玉を手に入れるためならその勝負に喜んで参加しよう」





08雪柳キギ  「そしたら報酬を6等分って契約は……」
雪柳がつぶやきながらポケットをまさぐっている。

「あんた何言ってんの?ここには7人いるじゃない」

キギは円弧を描きながら自分自身、雪柳、私、ジェーン、ナタリア、ヴァイス、アダムを指差した。
確かに、ここにいる人数で山分けすれば7等分が正解である。

「あれ、じゃあ貰った書類は間違いだったのか……」

キギは雪柳のポケットに手を突っ込み、引き抜いた書類をそのまま破り捨てた。

「記載にミスのある契約書なんか失効よ。勝ち取った1人が直接依頼主と現物を以って交渉すればいいの」







09背中 「ここから先はお互いがライバルだ。俺は林を抜けて祠に行かせてもらう!今生の別れになるだろう。じゃあな!」

それぞれが口々に捜索する方面を宣言し、走り出していく。

私は、沿岸から当たろうと言い、全員の背中を見送った。







私は船着場に戻ると、ボートのロープを係船柱から外し、その先にバケツをくくりつけて沖に向かって放り投げた。

バケツが離岸流を捉え、沖に向かってロープがピンと張った。
舳先を強く蹴り出すと、勝者の舟は誰をも載せず、ゆっくりと沖へと進んでゆく。

ポケットから無線機を取り出す。


「掛かったぞ。全員殺せ」


私は、そう言った。















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