FC2ブログ

第16話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります




00_ロゴ


茂みからユーホァが覗いている。
彼女の目的は捜索隊の排除。1名以上の殺害である。



01_発見 仕事を視線の先にはコヒヌール捜索隊のコック、ラバナーヌがいた。

肉や野草を持っているところを見ると、これから捜索隊の食事の用意をするのだろう。


ユーホァは考えていた。
なんであれ非武装の女性を、この双錘で撲殺する行為が正しいとは思えなかった。

選んだのは自分の手を汚さない方法だった。



02_薫香 ユーホァのもう1つの武器、それは幻惑術である。
マスクの気密弁を閉めると、腰に提げていた香炉に火をつけた。

香気がラバナーヌを包みこむ。
それは少量の吸引で酩酊状態に近い多幸感を呼び、注意力を散漫にさせる。

あとは仲間になりすまして崖まで誘い込むだけ。
勝手に落ちればそれで良し。そうでなくても背中から小突いてやれば、足腰の立たない体は簡単に海へと落ちるだろう。


茂みの影から優しく、しかしはっきりと語りかける。



03_異臭 「ラバナーヌや……ワタシ……ワタシだヨ……」

「ふぁ……?侘助さん……?」

「え? ああ……そうだヨ……ワビスケだヨ……」

「いなくなってたと思ったら、こんなところに迷っていたのねえ……」

「そうだヨ……道に迷って、足をくじいてしまってネ……」

「まあ、それは大変!」

「コッチだヨ……コッチ……」



ラバナーヌは誘われるがままに声の指す方に歩いてゆく。
男性に間違われたのは意外だったが、もはや男女の声の区別もつかないほどにトリップしているのだろう。



「コッチだヨ……コッチ……」

「こっちでいいの……ハイハイ……まあ!」

「マア?」


思惑どおりフラフラと誘われるがままに歩いていたラバナーヌの歩みが、不意に止まる。
彼女が指さした先には、茶褐色のキノコが群生していた。

「ハナイグチじゃない!? ちょっと待ってね侘助さん、あらやだ~、今日の晩ご飯はキノコ鍋だわ~!」

「は、ハナイグチ……?」

香炉の効果で注意力が欠如しようとも、シェフとしての本能か。
ラバナーヌは宝物を見つけた探検家のようにキノコを摘み始めた。


「モシモーシ?」


待つこと数分、ようやく立ち上がったラバナーヌであったが、その後も食用の花を見つけては花を摘み、果実を見つけては果実を採って行った。


「オーイ……」

数歩進んでは違う方向に走り出す調理師は、幸せ一杯の表情で暴走していく。
もはや物陰からの囁きに耳を貸さぬラバナーヌに業を煮やしたユーホァが、とうとう茂みから飛び出した。


「いい加減にシろーッ!!!」


04_襲撃ラバナーヌ視点 「!?!?」

大声と振り下ろされる凶器にラバナーヌは身をすくめ、咄嗟に手で顔を覆った。持っていた鍋の蓋が錘の直撃を防いでいた。
バランスを崩し尻餅をついたことで分散されたが、余りある衝撃が全身に響いた。

「イヤーッ!?キャー!!!」

何も分からず、叫び声を上げるしかない。

自分はただ、昼食の支度をしようとしただけなのに。

理解できているのは「目の前の女が自分に危害を加えようとしている」ということのみ。
命の危機に晒されてパニックに陥ったラバナーヌができたのは、あらゆる持ち物を投げつけることだけだった。



自制を失った無自覚の行動は、時に思いもよらぬ結果を齎す。

キノコや花実を摘んだカゴを投げた。油壺を投げた。昼食用の肉を投げた。酒瓶を投げた。

キノコの入ったカゴが片方の錘で叩き割られ、キノコが飛び散り、花が舞った。

油壺もまたもう片方の錘が振り下ろされ、その場に飛散した。

肉の塊を避けようとしたユーホァは、大きく姿勢を崩した。油の沁みた落ち葉に足を滑らせたのだ。
今度はユーホァが尻餅をついた。しかしそれでも視線は次に来る酒瓶をしっかりと捕らえていた。


錘が酒瓶を易々と叩き割る。ダウンしたユーホァの真上で粉々になったガラスとその中身が爆ぜる。
中身は度数の高いラムであった。


05_ボトル ユーホァは一瞬のうちに後悔した。酒瓶は割るべきではなかった。
ガラス片と酒が全身に降り注ぐ。
自らの腰には香炉があり、それを熱する火種にも等しく、アルコールが降り注いだ。

ばう、と音を立ててユーホァが燃えた。錘を当てた衝撃で、スプレーのように散ったラムがまとめて引火したのだ。



火達磨と化したユーホァは転げ回り、のたうち回る。
それでも火は消えず、ついには崖からその身を投げた。

「アアアアァァァァァァァ…………」

絶叫がフェイドアウトし、遠くで何かがぶつかる音がした。


06_怯え ラバナーヌはしばらく、その場を動けなかった。

何が起こったのか解らない中で、足元でぱちぱちと燻る草の香りと、肉の焦げくさい臭いだけははっきりと感じていた。










■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ
スポンサーサイト



第15話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります



00_ロゴ  

腕利きの用心棒、西の魔術協会の秘蔵っ子であったヘンゼルの死は捜索隊の足を挫くに余りあった。

この無人島に未だ潜む刺客に対抗する戦力は残されていない。

それでも貴族議員ファラメルディアスは頑として大英帝国の秘宝「コヒヌール」の捜索を続けようとする。

依頼主の主張と隊の士気が反比例する中、膠着を剥がしたのはポワゾンだった。



「私たちが捜索を続けるにせよ帰るにせよ、このままではヘンゼルさんの遺体は朽ちてしまうでしょう。直ちに遺体を洗浄、保存します」



ポワゾンは大口鞄を抱え、近くの川に降りていった。

川の水は存外温かく、この島全体が雪に覆われているわけではないことが分かる。


ほとりまでヘンゼルを運んだセイヤンと翡翠は手伝いを申し出たが、彼女はそれを断った。
「そのかわり雪が集められる場所を探してきてください。雪中であれば腐敗の進行を遅らせることができます」

ひとり、粛々と処置を進めていく。消毒して血を抜き、腹部から腸を除去して縫合。いくつもの薬品を注入していった。



元来、彼女は薬剤調合師を目指す研究者であった。


産業革命のもたらす科学は発展を第一として環境を破壊しつくし、オートメーションの波は人から雇用と健康を奪っていった。

「人々に安価な薬を調合する」その貴い志に反して自らの生活は厳しくなり、糊口をしのぐためには違法な薬品を捌くしかなかった。大義を成す前の小さな悪事は、最終的に自らを冒していった。

薬品の横領を疑われた彼女は研究所を追われるように去り、医療の行き届かない貧民街で医者と名乗り生きるようになった。


空腹を紛らわすために感覚を麻痺させ続けた体は中毒でボロボロになり、目はやつれ肌は軋み、頬はこけていった。



困窮する中で、「14番街に腕の立つ闇医者がいる」と聞きつけた侘助の依頼はくすぶっていた自分の心に再び火をつけた。

最終的な依頼達成の報奨金があれば、自らの病院に十分な医療設備を揃えることができる。


ポワゾンは、ありったけの薬品を鞄に詰めて街を出た。





医者とは、死と向き合う仕事である。

この旅で自分の装備が軽くなるようなことは起こるべきではないが、しかし、そのために自分がいる。

いま此処にあっては、ヘンゼルの最期の尊厳を守ることがポワゾンの職務である。



背後で足音が聞こえた。


「いい場所はみつかりましたか」

振り返った先には、セイヤンでも翡翠でもない男が立っていた。



01_オッラー



「オッラーーーーーーーーーーー!!!!アミーガーーーーーーーーーーー!!!!」


緑の仮面が、島中に響き渡るような絶叫で応えた。
凍えていた鳥たちが飛び去り、木々が揺れる。

ポワゾンは一瞬で理解する。この男が捜索隊を脅かす刺客であると。


「んっんーー!? これはこれは調理済と調理前のご馳走だ! 食べがいがありそうだ」


「あんたがヘンゼルを暗殺したの」

ポワゾンはヘンゼルの遺体を遮る。

「暗殺なんて性分じゃないよ。恐怖に怯える顔を見れないなんて勿体なーい!!」

「誰であろうと、目的がなんであろうと、死者を侮辱することは許さない。私がいる限り」



02_守る 「でも残念だァ」

赤いポンチョを翻したかと思うと、仮面の男は一瞬でポワゾンの背後に立っていた。

まるで空間を出入りしているかのように音も無く現れたそれは、ポワゾンの顎をむんずと掴み、自分の顔に引き寄せた。


仮面の穴の下から、果物の選別をするような目がこちらを覗いた。

「オマエの体はボロボロ。あんまり美味しそうじゃないね」

口角がマスクに隠れるほど吊りあがり、不快な笑みを浮かべている。
隙間だらけの歯から溢れる、男の反吐が出るような悪臭に思わずポワゾンは手を振り払い突き飛ばした。



ポワゾンは身構えるが、男は意にも介さず自らを指差す。

「申し遅れました! オレ様は!! エル=カクタス!!! この世界が”この世界”であることを識っている、ただひとりの常識人さ!!」

仮面の男エル=カクタスは両手を広げ、抱擁を求めるかのようにゆっくりと近づいてゆく。


ポワゾンは腰の注射器を引き抜いた。

先に仕掛けたのは彼女であった。注射器を短剣めいて突く。

カクタスの――ポンチョに隠れて判別は付かないがそれでも――中心を狙った一撃は、確かに体の芯を捕らえていたはずだった。

左腕が伸びきる直前、男の体は霞の如く消滅した。そして同時にポワゾンの真横に現れた。

「!!?」

視界はふたつの現象を同時に捕らえていた。
超スピードでもちゃちな催眠術でもなく、男が瞬間移動したことをポワゾンは理解した。


03_バトル 「オレ様には、剣も! 銃も! もちろん注射器だって効かなァい!!」

カクタスは伸びきったがら空きの左手を掴み、力任せに放り投げた。
赤子に蹂躙されるぬいぐるみのように吹き飛び、ポワゾンは受身も取れずに地面に叩きつけられた。


「ナイフで刺されたら痛いだろう? 弾が体に当たったら痛いだろう? みんな知ってることさ」

息ができない。肋骨と右上腕が折れている。



「じゃあなぜ人間はそれでも傷つくんだ? リンカーンは何故死んだ? 車の事故はなぜ無くならない? 」


「……避けられないからさ」

うずくまることしかできないポワゾンの視界からカクタスが再び消え、後ろから髪を掴み上げられる。

「オレ様は違う。この世界を好きに出入りできる。銃弾が当たるなら“一旦出れば”いい。お前を遠くへ投げ飛ばしても、こうやっていくらでも近道できる。……ンまあ、この島まではさすがに船で来たけどネ」


そう言って、自らが投げ捨てたぬいぐるみを再び持ち上げる。


04_窮地 「ハアアアアン Se siente bien……!この瞬間が一番気持ちいいぃぜ……!」

手入れのされていないマチェーテが、持ち上げられた首元に添えられる。

「ゆっくり……ゆっくりィ……手を離してイくからね……!!」

「っぐ……!!」

ポワゾンは握りしめていた石を投げるが、カクタスには当たらない。


明後日の方向に投げられたそれをカクタスは目で追おうともせず、ガチャンと石が音を立てるとともに吹き出した。


「……グッフフ!? 今のなに? なにソレ!? 必死の抵抗ってヤツ!? なかなかウブなリアクションするじゃないかアミーガ!  とっても無様でポイント高いよ~」

興奮に息を荒げる。手の力が一段階弱まり、ポワゾンの喉に刃が触れる。つぷ、と赤い玉が剣を伝った。



「オマエは今投げた小石のようなもんさ。オレ様に傷ひとつ付けられない」

カクタスはサディスティックに笑った。

しかし、ポワゾンも笑っていた。それは今から殺される人間の顔ではない、生者の目だった。


「そんな顔するなよアミーガ、萎えちまうだろ? 死ぬ直前まで足掻いてくれよ!……?……あ?」


05_驚愕 カクタスの視界がぐにゃりと歪み、思わずよろめいた。

両手が離れ、解放されたポワゾンはなんとか立ち上がる。



「オマエ……何を!?」


ポワゾンの視線の先を見やると、そこには白煙を噴き出している彼女の鞄があった。


彼女の投げた石は、確かに目標を破壊していたのだ。

鞄に満載された劇薬の瓶は割れ、あるものは反応を起こし、気化して噴出した。

この煙の主な成分は、遺体保全に使われるヒ素である。




「この島を渡るほどは移動、できないって……? じゃあもう、助からないね……。小石を見くびった……あんたの負けだ」

崩れ落ちるカクタス。

「解毒……! 解毒……! げ……!!」

無様に這って鞄に近づき、一層煙を吸い込んだカクタスはそのまま息絶えた。




06_相打つ
「この島に医者は"もう"居ない……ここで私と共に朽ちるんだ……」



肺を損傷し、呼吸が浅いことが幸いしていたポワゾンも、もう限界だった。





地面の雪で冷えたガスが、暖かい川下の方にゆっくりと流れていく。

この毒は、もう誰も傷つけないだろう。



そのことに安堵したポワゾンは、穏やかに目を閉じた。







■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ

第14話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります



モルゲンロートの手記

大英帝国秘蔵のダイヤモンド、コヒ・ヌールの捜索。

貴族議員、ファラメルディアス・フォン・ザクローゼンが送った先遣隊は何者かの妨害によって殺されていた。

先遣隊が消息を絶って2ヶ月。ザクローゼン率いる捜索本隊は、無人島でふたたびその刺客に襲われた。


それでも。

私たちにはある種の安心感があった。
ザクローゼンが言うには、先遣隊には本格的な医療行為を行える者も、自生する植物から料理を作れる者も同行していなかったそうだ。

幻の宝玉を捜索する、という本来の目的を秘匿して行われたその「地質調査」に、大掛かりな支援要員をつける必要がなかったからだと。

でも、私たちにはポワゾン医師とコックのラバナーヌさんがいる。

そして、巨大な機関銃を操る怪僧をものともせず打ち倒し、無傷で帰ってきたヘンゼルさんが付いているのだから。


通信機が不調なのだけれど、幸いにも船から見た島の全景を考えて、離ればなれで遭難するほどの大きさはない。

何かあっても低い方に向かって歩けば、どこかの海岸にたどり着く。


はぐれた侘助さんもきっと、すぐに見つかるだろう。
全員揃ったら、早々に帰還を提案しよう。

それまでは、ヘンゼルさんが私たちを守ってくれる……。





モルゲンロートの根拠のない楽観は、次の日の朝、覆された。












00_ロゴ







「うわああああああ!!!!」











01_発見 ザクローゼンが腰を抜かし、噴出した恐怖が喉を震わせ慟哭となって島中に響き渡る。

朝食の時間になっても戻らないヘンゼルのパトロールを心配した一行が見つけたものは、あまりにも無惨な光景だった。

落ち葉は黒く濡れ、敷かれている雪が丸く、紅く染まっていた。
円の中心に横たわっているのはヘンゼル。








02_検死 ポワゾンが駆け寄ってヘンゼルの腕を取るが、そのおびただしい出血の量が、そこにいる全員に彼の死を証明していた。


「……。はい、死んでいます」

遺体全身をまさぐる。背中の大きな傷を除けば、それはあまりにも綺麗な遺体だった。



「背部の動脈に向けて刺されたあと、捻るなどして傷口を押し広げられています。切創部付近に血ではない液体の乾いた後が見受けられる……恐らく毒と失血による死亡です」

冷静な検視が続けられる。ポワゾンは誰とも目を合わさず、死因を断定した。



03_死亡確認 「他に怪我を負っている箇所はどこにもありません。服も乱れておらず、争った形跡もない。背後を取られて一瞬で殺されたと思われます」

淡々と事実を突きつけられ、そこにいる全員が自らの立たされた状況に気付く。

用心棒の死。対抗手段の喪失。未だ見ぬ刺客は今この瞬間もどこかで命を狙っている。
捜索隊は、一夜にして無力になった。
そこに居る全員が顔を見合わせていることに気づいたザクローゼンは、口をぱくぱくさせて必死に声を絞り出した。

「……だめだ! だめだぞ! 俺たちは帰らない! “たかがひとり死んだ”だけじゃないか! コヒヌールだぞ!? 大英帝国、女王の権威の総てだ! 俺たちはまだあと6人もいる! 俺も、お前たちも帰さない!」

明らかな虚勢だった。誰よりもザクローゼン自身が怯えている。
目的という大きな杖にすがりつくかのように膝を震わせながら立ち上がると、セイヤンに掴みかかった。




04_恫喝 「おいコーディネーター! 目的地まであとどのくらいある!」

「侘助様が目星をおつけになっていた場所までは、まっすぐ進めばあと1日ほどで」

セイヤンがあたふたと取り出した地図を奪い取って先頭を切ろうとするザクローゼン。

「じゃあ走るぞ!」

怖気付く全員を、何より自分自身を奮い立たせるように行軍を再開しようとするザクローゼン。

「お待ちください」
それを制したのはミーナだった。この事態にあっても、彼女の言葉は変わらず冷静な早口だった。

「その結論は早急すぎます。セイヤン氏に伺いますがこのまま直線距離を走った場合に経路に危害を加える意志のある者が隠れられる場所はどれくらいあるのでしょうか」

セイヤンはザクローゼンから地図を優しく取り返すと、一呼吸を置いて答えた。

「……正直に申し上げますと、無数にございます。これから皆様が向かわれる場所はこの島の遺跡の最奥。身を潜められる建造物が立ち並ぶ只中です」

セイヤンの言葉に嘘はない。島にはかつて栄えていたであろう文明の亡骸が遺跡となって点在しており、主だった建造物は地図にも示されていた。

「目的地である島の中心部と私たちを結ぶ線上にはいくつもの……読めませんが、文字列が重なっています。急いで敵の待ち伏せを受けるような場所には立ち入らないほうが良いかと。……それにしても、この文字……」

ミーナご自慢の早口が濁る。
眉根を寄せて覗きこんだ地図には、解読不可能な文字が記されていた。

それらは、この島の領海内の国の言語でも、ここにたどり着くために今まで経由してきたどの地域の言語でも当てはまらない文字体系のように見えた。

「じゃあどうすればいいんだ!」

おかまいなしにザクローゼンが怒鳴る。
苛立ちをただ乗せた言葉には、貴族議員の威厳も指揮者としての判断力も無かった。


05_まあまあ 「とにかく開けた場所を選んで進みましょう。迂回にはなりますが、皆様のご安全をお守りする立場としては、それしかお勧めはできません!でなければ、私としては撤退をご判断いただきたい」

ザクローゼンは天を仰ぎ、唸った。









■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ
しめ鯖

第13話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります



ザクローゼン率いるコヒヌール捜索隊を襲った鏘園と名乗る虚無僧。

隊の用心棒ヘンゼルは仲間を退却させつつ、圧倒的な力でこれを撃退した。


足跡を辿って深い藪を付き切った先には、走り疲れた仲間たちがへたり込んでいた。


00_ロゴ

「みんな無事か!」
「無事だ。ここに居るのはな。だが・・・」

ザクローゼンは顔を上げて答える。声は冷静だが、それは安堵の表情ではなかった。

ヘンゼルが指折り数える。依頼人ザクローゼン、通信者モルゲンロート、学者ミーナ、医師ポワゾン、吟遊詩人翡翠、コーディネーターセイヤン、そして自分……1人足りない。


混乱のさなか、貴石屋 侘助の行方が分からなくなってしまっていたのだった。

「私がしんがりを務めていたのですが……途中の藪を抜けた時には、もう侘助様は何処かへと……申し訳ございません!」

セイヤンが重圧に堪らず声を上げる。


「しかし、あの虚無僧はあなたが倒したんでしょう? ならその内合流できるはずでは」

ポワゾンの楽観的予測にも、ヘンゼルは喜ばない。

「いや……この島にはまだ俺たちを狙っている奴がいる。恐らくは、あと5人」



先の戦いで得た情報が確かならば、消息を絶った先遣隊6名は「それぞれが持ち場にて殺された」。

鏘園を引いても、まだこの島には捜索隊を狙う者があと5人。
どこにいたとしても、単独行動で安全なはずはない。

押し黙る一同。

「とにかくご飯にしましょう!」

張り詰めた空気を断ち切ったのは、ラバナーヌの言葉だった。





01_団欒 ひと時の団欒が、捜索隊の心を和らげる。
日が落ちて一際冷え切った体を、焚き火と温かいスープがゆっくりとほぐしていく。

「ザクローゼンさんよ。3ヶ月前だっけか?先遣隊が消息不明になったのは」

最後の一口を飲み干した翡翠が、湯気を吐きながら尋ねた。

「それって先遣隊がお宝を持ち逃げしたってことは考えられないか」

「それはない」

ザクローゼンは切り捨てた。

「先遣隊には宝玉のことは伏せて調査を依頼した。例え宝を見つけたとしてもあいつらの素性は知り尽くしている。今も監視中だ」

それは私も同感です、とミーナが重ねる。

「貴金属を適切な価格で売買するルートは限られています。ましてや大英帝国が秘蔵する宝玉を売るなんて大それたことを一個人が隠し通せるはずがありません。皆さんも出し抜けるなんて思わない方が身のためです」


「そうだ。そしてこの島にたどり着く航路はひとつしかない。港の人間も全て買収済みだ。妙な動きをすればお前らの命も保証できないぞ」

おおこわいこわい、と翡翠はリュートをつま弾いた。


02_見回り 先に寝ていたヘンゼルは、この夜何度目かの見回りに出た。

寝静まるザクローゼン達から離れすぎないよう注意しながら、注意深く監視する。



空は少しづつ白んで来ていた。地面を観察するも、足跡らしきものは見えない。


焚き火、談笑、リュートの音色。敵にこの場所は知られていることだろう。しかし、とうとう襲撃されることはなかった。

「もうすぐ一番冷え込む時間帯だ。小便したら薪を足してやらなきゃな」




03_背後 ヘンゼルが茂みに向かって用を足していると、背後で足音がした。

「お、連れションか?」
返事はなかった。




ズム。














04_ナイフ 熱く燃えるような痛みがヘンゼルを貫いた。

それがナイフだとすぐに分かったが、ヘンゼルにはもうどうすることもできなかった。




「いやあ侘助様は素晴らしい方をお雇いなされました」









05_痛み 「おま……え……」



ワンドが手から滑り落ちる。



06_ロッド 「ヘンゼル様がこれほどまでにお強いとは私も計算外でした。きっと他の刺客にも勝ち目はないでしょう」

肩を掴み、柄を捻る。


「ですから、あなたにはここで退場いただきます。お疲れ様でした」


凶器をゆっくりと引き抜くと、糸の切れた人形のようにくずおれるヘンゼル。全身がガタガタと二度ほど震え、それきり動かなくなった。






07_勝利 セイヤンはナイフに塗られた毒を注意深く拭き取ると、それを手際よく袖にしまい、静かにその場を後にした。

 

 






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ
しめ鯖

第12話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります




00_ロゴ







ガットリングが空転しながら、こちらに鎌首をもたげている。
赤熱する砲塔と刻まれた金色の経文が高速に融け混ざり、主人の攻撃命令を待つかのように唸りを上げた。


数珠型スターターを指に提げ、主人である虚無僧・鏘園は低い声で告げる。



「みな等しく黄泉へと降った。獣人も、墓荒らしも、女も、狂人も、枝も、真理を嘯く天狗も」



雪柳、ヴァイス、ナタリア、ジェーン、キギ、アダム。

宝玉に目が眩んだ者は皆、島を守る刺客たちによって殺された。
大英帝国の噂話にすがって安易に未来を渇望し、ひとりひとりが足元を掬われた。


「へえそうかい。でもアンタが経をあげたのは一度きりなんだろ」

01_ズサー 相対する捜索隊の用心棒、ヘンゼルはまだ動かない。



「此度で二つ目となるであろう」

「連勝記録なんか作らせねえよ。あんたは1勝1敗で終わりだ」

印を組んでいた虚無僧の右手がトリッガーへと添えられる。
呼応するように、ヘンゼルの唇がわずかに動いて何かを唱えた。
「■■■■■■……!」



鏘園の読経とともに、ガットリングガンが火を噴いた。
「如是我聞、汝等衆生、当信是称讃、不可思議功徳、一切諸仏、所護念経」

6つの銃口からとめどなく放たれる強烈な発砲音が重なり、巨大な金属樽が転がるような音を立てる。


その弾幕をヘンゼルは縄跳びを楽しむかのように飛び越え、あるいは掻い潜った。





02_避け 「そんな重たい丸太で俺に当たると思わないほうがいいぜ」

無論、それは生身の人間に出来る芸当ではない。
ひとたび転経奇環砲が斉射を開始すれば、有効射程1100メートル内は低質のチーズの如く穴だらけだ。
地を這う生物が鏘園の“読経”から逃れるのは容易いことではない。


ファラメルディアス達が生き延びたのは、ヘンゼルの「反転」の号令で即座に藪の深い谷側に逃げ込めたからに他ならない。



奇環砲に真っ向から対するヘンゼルが自身に掛けていたのは加速の魔術。

心筋を加速させ、血流を加速させ、全身の筋収縮を加速させる。

その運動を制御する知覚をも加速させることで、奇環砲が照準を合わせるよりも速く動くことを可能にしていた。



鏘園は念仏を唱えながら全身をねじり、奇環砲を振り回し続けた。

僧に似合わぬ巨躯とその両腕で反動と重さに耐えながらヘンゼルを追う。
それでも砲弾は地面を耕し、木立や蔦を薙ぎ払うだけだった。



そしてヘンゼルを追うその動きが誘導されていることに鏘園は気づいていない。

右へ左へと次第に振り幅が大きくなった機関砲はとうとう持ち主の重心から外れ、鏘園は咄嗟に脚を踏み出さざるを得なかった。

姿勢の維持に気が割かれ、わずかに読経が止まったその瞬間、視界からヘンゼルが消えた。


一瞬の隙を突いて大きく跳躍していたヘンゼルが着地したのは鏘園の背後だった。

03_背後に立つ 相手に振り返るいとまも与えず、天蓋の中にあるであろう後頭部目掛けてロッドが叩き込まれる。

04_背後から殴る 籠を突き抜け、肉を突き抜け、頚椎に至るその衝撃で鏘園の意識は寸断。バランスを立て直すこともできず、脚の折れたワイングラスめいて前のめりに倒れこむ。


しかし、ヘンゼルはノックダウンを許さない。

鏘園が転倒するよりも疾く正面に周りこみ、腰に下げていたブランダバスを抜いた。



「ひとりやっつけるのに何発の弾が要るんだ?」










05_発砲1 「俺なら1発だ」




06_発砲2 ブランダバスから放たれた散弾はしかし、一点を目掛けて収束しホオズキのような軌跡を描いて鏘園の心臓を射抜いた。



絶命により弛緩した筋肉が膝を着かせるよりもなお疾くヘンゼルは加速し、駄目押しの一撃を見舞う。

07_フルスイング 頚椎を砕かれ、心臓を貫かれ、内臓を外側から圧し潰された後に



ようやく鏘園は地面に向き合うことを許された。

08_将園死亡 ジャングルに再び静寂が訪れた。


遺されたヘンゼルは、自身に掛けた大量の加速を解き、ふうと深呼吸する。

「あちゃあ、先にいろいろ訊いておくべきだったなあ」


名残惜しそうに虚無僧の遺骸を揺すった。無論、返事はない。


09_つんつん


大人数を制圧する力こそないが、加速を駆使した単純な暴力は1対1の戦闘において相手を簡単に圧倒することができる。

相手の死角に入ることも、急所に致命的な打撃を与えることも、発射された弾丸を小突いて軌道を変えさせることすらヘンゼルには容易いことだった。

その速さ故に、自分でも手加減がわからない。

ヘンゼルにできることは加速のオンオフを切り替えることのみであって、「尋問できる程度に痛めつける」などという細やかな制御は未習得のままであった。



「しかしまあ……無人島にこれだけの敵がいるってことは、ここにあの議員サマの探してる秘宝があるってのは間違いないな」

ヘンゼルは思考を巡らせる。

10_推理 先遣隊がここに着いたのは2ヶ月前だと聞いている。

ヘンゼルが馴染みの酒場で自主的な用心棒(と称したタカり)として働いていた時に輝石屋である侘助から声をかけられたのが1週間前。

そこからはあっという間で、本隊が揃ったのが最後の港を出る2日前。

計画が遅滞しているようにも、外部に情報が漏れるようなミスを犯しているようにも感じなかった。


なぜ俺たちは待ち構えられて襲われたのか。情報はどこから漏れたのか?
誰かに監視されている?

まだ確定に至る情報はない。ただ今回、ここに倒れている虚無僧の仕掛けた奇襲がまぐれでないとすれば、俺たちはまた襲われるだろう。

先遣隊6人が「それぞれ持ち場にて殺された」ならば、この深い森に潜む刺客はあと5人。
油断してはいられない。

――俺は生きて帰り、金を手にして必ず自立する。家柄でなく、自分自身の力を以って一から成り上がるんだ。



「まいっか。合流してから考えよう」

口をついた呑気な言葉と裏腹に周りを警戒しつつ、ヘンゼルはロッドを担ぎ
退却したザクローゼンたちを追った。



11_先へ進む









■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ
しめ鯖