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第11話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります





00_ロゴ






01_背後 狂乱のオカルティスト、アダムはマハトマに導かれるまま森を彷徨っていた。

薬草が詰まった嘴の内側をしとどに濡らしながらも、決してマスクを顔から外すことはない。
アダムはこの島を取り巻く外気そのものを害のある毒と判断しているからだ。

この島の気候は異常だ。数時間前まで凍てつくような雪原にいたかと思えば、急に気温が上がりはじめて、いまや全身がべとべとに汗をかくほどの暑さに変わっている。


「早々に宝玉を見つけ退散しなければ、暗黒の狂気に呑み込まれてしまうぞ……」

しかし、現実はアダムに厳しかった。

狂乱には狂乱が引かれ合う。
往く手に立ちふさがったのは虚無僧・鏘園だった。

02_遭遇 「我は鏘園。汝の業を断つ暗明の虚無僧なり」

半身でガットリングを構えたまま抑揚なく名乗る。


「業(カルマ)……? ハッ、そんな低俗な志でこの私がここまで来たと思うか! 野良坊主ごときが止められると思うなら止めてみよ!」


「無論」

アダムの挑発に、素顔を隠した天蓋の中から低い声で応じる。
鏘園は勢いよく数珠型リコイルスタータを引いた。





03_腰溜め撃ち 「真理の光!!」

ガットリングが火を噴くより幾ばくか速くアダムが杖を突き立てた。
瞬間、杖の先が眩く発光し鏘園の視界は真っ白に遮られた。

網膜に焼き付いた白いモヤの中に現れるいくつものペストマスク。


04_幻惑 鏘園が銃口を幻覚に合わせようと逡巡した一瞬の隙をついて、アダムは素早く森の深い方へ逃げ込んだ。










05_ぜえはあ 数分か、それ以上か。
足がもつれ、木に倒れこむように縋って、逃走は終了した。

「こ……ここまで、来れば……」


思わぬ全力疾走にじらじらと視界が揺らぐ。
肩で息をしながらアダムは状況を整理していた。

堂々と啖呵を切ったは良いが、正面衝突して勝てる相手ではなかった。

ヴァイスやナタリアとは意識的にコミュニケーションを取らなかったが、今考えれば集団で行動しても良かった。
何かあれば身代わりにも出来ただろう。


しかし、あれだけの火力を持った兵が守護しているとあれば宝玉も近いはずだ。
大英帝国のコヒヌール。この島にあるのは間違いない。

呼吸を整えて、もう一走り行けるだろうか。
上陸地点への帰還ルートも考えれば、まだまだ油断はできない。




「茶番は終わりか?」

06_背後2




「う、うわああ!」




07_背後2気づき 虚無僧が、さもいままでそこに居たかのように平然と、アダムの背後に立っていた。


「わずかな蒸気圧を検知。異教の徒よ、そんなペテンではこの鏘園は騙せんよ」

「この、狂乱のアダムに銃を向けるとは! 真理に焼かれて消し炭になる前に立ち去るがいい!」

「狂乱? 真理? 汝よ、自分で言っていて恥ずかしくないのか。稚戯を振り回しても、まことの真理にはたどり着けぬ」


こけおどしは一切通じない。 右手に数珠を絡めたまま、鏘園は一歩、また一歩とにじり寄る。
アダムは気圧されながら距離を取ろうと後退したが、地面を這うツタに足を取られ転倒してしまった。


08_倒れ 「し、真理の光!」

杖を振りかざし叫ぶが、しかし何も起こらない。

「おおかた、使い捨てのフラッシュバルブであろう?もう発光は出来まいて。」




鏘園が再び数珠を引く。遮るものもなく、すべての弾がアダムの全身を砕いた。




「偽りの狂人よ。汝の信じる死後の世界では、嘘吐きはどう裁かれるのであろうな」


09_南無三 「まあ、『狂人のふりをすればすなわち狂人』か」

鏘園は亡骸に相対し、片手で念仏を唱えた。









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原案・文章(マイケル)
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第10話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります



00_嗜虐

「グゥ・・・・・ウゥ・・・・」
雪と熱帯植物が同居する奇妙なジャングルで、崩れた塀に身を潜めている人影がひとり。














01_damage.jpg
雪柳である。





















01-2_逡巡
01-3_脱兎 ヴァルターとの戦いで辛くも逃げおおせた雪柳であったが、この物陰に身を寄せてからは一歩も動けずにいた。

体を縛り付けるものは何なのか。

斬り結んだ時出来た傷は大したものではない。組み敷かれ、剣を突きつけら命を脅かされた恐怖でもない。



それは、一言で表せば悪寒だった。
全身の寒気と倦怠感、吐き気そして目眩が雪柳を蝕んでいた。


息の続く限り走り続けたのだから当然身体は疲弊する。しかし、その疲れが一向に癒えない。

そして雪柳は立つことも困難になり、体を縮こまらせ震えながら、やがて気絶した。






どれだけの時間が経っただろうか。雪柳の意識を現実世界から引き揚げたのは、男の声だった。

02_マッド 「お前は国(アメリカ)を愛しているか?」


張り出した木の枝に腰を降ろし、男がこちらを見下ろしていた。



星条のスカーフ、赤と紺の外套。

ウエスタンハットに、安物のゴーグル。

腰に巻いたむき出しのダイナマイト。




「お前は・・・・・・! “マッド”!」



雪柳は、男を知っていた。




マッドと呼ばれたその男は、口の端をいびつに持ち上げた。



「おお、俺を知ってたか」

アメリカに住む外国人労働者でその名を知らぬ者はいない。



マッド。本名アルマッド・ハミルトン。
元塗装工の脱獄囚である。

逮捕時には23州を放浪し暴行・殺人を行ったとされている。









「俺も、そのミリティア・ガントレットを知ってるぜぇ。 お前、サンフランシスコの獣人だろ」
「……ッ!!」







雪柳がたじろぐ。

自分が、被食者であるからだ。

愛国者・クリスチャンを自称するマッドが手をかける対象は、いずれも貧しい外国人や亜人であった。

マッドはその姿から”血染めの星条旗”と報道され、ごく一部の人間から熱狂的な支持を受けていた。





「お前ら獣人は黄金に目が眩んだケダモノだ」







雪柳が生まれた獣人街、その発祥はカリフォルニア・ゴールドラッシュに沸いたサンフランシスコの外国人労働者集団である。






行き過ぎた愛国心はそのまま排外主義として、



「お前ら獣人は国を堕落させ、街を汚すケダモノだ」



快楽殺人の大義名分となる。








03_投擲 「オラァ!」


マッドが腰のダイナマイトを引き抜き、側薬付きのベルトに当て擦る。

火花を散らした爆薬筒が、雪柳に向かって放たれた。










ダイナマイトは雪柳の数メートル手前の地面に落とされ、ほぼ同時に炸裂。
激しい火柱が起こり、爆風の作り出した土煙が辺りを灰色に染めた。




04_爆発 「グッ……アアッ!!」

もうもうと立ち込める土煙が晴れ、中にのたうち回る雪柳の姿があった。
爆風を諸に受けた小石が脇腹を抉り、枝が右腕を貫いていた。












05_愉悦 「ひゃははははああははははは! それが! 報いだ! アメリカを穴だらけにしたお前らを! 今度は俺が穴だらけにしてやった!」


マッドは木の上から動かない。
ガントレットは届かず、安全地帯からの一方的ないたぶりが続けられた。








わざと直撃させない距離での爆撃。
破片が雪柳を苛み、爆風が肌を焼いた。


土埃と血油にまみれて呻く声は次の爆発にかき消される。



殺人鬼は、ゆっくりとダイナマイトを投げ続けた。

酒場でひとりダーツを投げるかのように、静かな川面に小石を落とすかのように。




さらに幾度めかの爆発の後、マッドが不意に投擲を止めた。

アンニュイな表情でベストからスキットルを取り出して、一口あおる。

バーボンを飲み下すと、遠くを見ながらひとりごちた。



「『今日がお前の命日だ』…ってセリフあるよな。西部劇で悪役が言うようなヤツさ」



雪柳は逃げようとしていた。弾切れか、休憩か、飽きたのか。
わからないが、攻撃の手が止まったのだ。
しかし破片で切り刻まれた体で這いずろうとも、マッドは気にする様子もない。








06_瀕死 「意外に優しい言葉だよな?」

状況が変わるとはとても思えない。だがそれでも必死の抵抗を見せる雪柳に、まるで世間話をするかのように落ち着いた声で語りかける。



「俺はお前にそんな事は言わねぇ。誰にも知られずここで怯えて死ね」


マッドは大きく振りかぶって、ダイナマイトを投擲した。









07_投擲2 それははじめて雪柳の背中で爆ぜた。















08_とどめ 一際大きな火柱。地面がまくれ上がり、粉塵となって炎と共に吹き飛んだ。


爆煙を背にマッドは、やっと腰を上げる。


ひとしきり漕いだブランコから他の遊具へと移るように
少し寂しげに木から飛び降りると、あの歌を口ずさんだ。


"Oh, say can you see,
by the dawn's early light......."


赤と紺のマントを翻し、血染めの星条旗は林の奥へ消えていった。




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第9話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります


私は、あの国を許さない。


私は、先祖を許さない。


私は、家族を許さない。




許せるものが無くなって、私は、独りで生きていくことにした。


水と日光さえあれば何週間も生きていけるこの体で、生まれ育った森を抜け、コンスタンティノポリスから更に西に。

列車と貨物船にまぎれ、イギリスへと逃れる遥かな旅路。


日雇いのわずかな路銀で、2年かけてたどり着いた。


それでも、私を苛むこの左手を治す医者は



00_キギ


イギリスにも居なかった。









01_ロゴ









キギはタフタである。




タフタとはオスマン帝国の攻略によってコンスタンティノポリスから内陸のさらに奥の森へ追いやられた一族を指す。

タフタの一族は絹織物作りに長け、様式化された花文様と幾何学模様は世界中で重宝されていた。








進軍に追われ森に身をやつしたタフタ達は、今度は麻や綿で布を織った。
彼らの織る青や緑は自然への敬意と畏怖の表れによるものである。

過酷な自然に順応しようとする彼らに、今度は森自身が牙をむいた。


風土病の蔓延である。


罹患すると体温が下がり、食物を受け付けなくなる。
四肢の筋肉は硬直し、肌は朽ちて次第に苔と蔦が絡まるようになる。

肌の樹皮化は加速度的に全身へ進行し、やがて意識を喪失する。

しかし心臓が停止しようとも、遺体は腐らない。

タフタの一族はこれを「森への回帰」と考え、
              ・・・
全身が硬直した遺体をその地へ植えた。


キギはその儀式から抜け出したタフタであった。



02_捜索



林を抜け、坑道を避けて川を渡り、島の中央部へ。


キギは先へ進むことを拒むような雨林のうねりを造作無く越えていった。


島の大地を薄く覆っていた雪はある地点から急に無くなっており、にわかに気温が上がり始めている。

それまで島のあちこちで散見されていた集落のような廃墟はもう見当たらない。


代わりに石造りの小さな祠が、まばらに見られるようになった。

それらの正面と思われる側は一様に島の中心部を向いている。


英国女王の宝玉がなぜこの島にあるのかは不明だが
この島に何かが奉られているとすれば、それは間違いなく進行方向の先にある。
キギの予想は、半ば確信めいたものだった。

祠の間隔が短くなり、道はどんどんと険しくなってゆく。


そして、幾度目かの断崖を登った先に。



03_発見

「見つけ……た……!」



キギは島の最奥へとたどり着いたことを理解した。


島に点在する無数の道標である祠が同心円状に向き直る高台。

その中心にひときわ大きな祠があった。ここが島の中央である。


キギは辺りを確認する。ヴァイスもナタリアもまだここへは来ていないようだ。




しかし気付くことができない。ヴァイスもナタリアも殺された真実に。





04_忍び寄る影




その魔の手が自らにも及ぶという必然に。




05_忍び寄る影2



「木人が一番乗りとは、皮肉なものだな。おい」







06_おい


背後からキギの肩を無造作に掴まれた。


「誰」「近づかれ過ぎた」「どうやって」「知らない声」「敵か仲間か」「武器は」「怪我したか」「足音は無かった」

散発的な思考が明滅し、結論も出ぬ間に飛びずさった。



しかしキギは見る。相手の姿を。

大きなターバン、腰に提げたヤタガン。三日月の首飾り。「木人」。

瞬間、全ての論理的思考が消し飛び


目の前の男が殺すべき対象に変わった。








07_威嚇  

「イェニチェリイイイイイィィィィィィィィ!!!」



構えた大鎌を横薙ぎに振り抜く。

しかし目の前の男は、まるで強風に煽られた新聞紙をはたき落とすかのように軽々と踏みつけた。



「ハッハ、親父の仕事で呼ばれても困る。俺にもナルギレって名があるんでな」

08_振り向き


ナルギレと名乗ったその男は、キギに警告する。

09_武器止められ 「おっと抜こうなんて思うなよ。お前はもう俺の間合いの中だ」

ナルギレが半身で相対した後ろ側、左手は既にヤタガンの柄に添えられていた。


大鎌を抜けば切られる。後ろに逃げれば武器を見捨てる上に、崖に阻まれる。実質退路はない。


だが、キギの思考は目の前の男への怒りのみがあった。

「お前たちは!200年前にタフタを森へ追いやった!私たちを森の毒に塗れさせたこの屈辱を! 私は! 私は決して!」

相手を声で破壊しようとさえ思えるほどの衝動が、怒号としてナルギレにぶつけられる。

「私は決して許さない! この体を! あの森を!! 逃げたタフタを! 貴様達イェニチェリをォォォォ!!!!」



ナルギレは意にも介さない。

「そう熱くなるな。”反応”が進むぞ」


先祖と自分の汚辱を、ここで刺し違えても雪ぐ。


キギは大鎌を引き抜いた。

しかし、振りかぶろうとした体は大きくバランスを崩し、キギは地面に倒れこんだ。

体に力が入らない。全身の血の気が引ききったような眩暈に襲われ、立ち上がることすらできない。


「グッ……ウゥ……ッ!!」



10_樹木化
・・・・・・・左手が動かない。否、衝いた左手が地面に根を張っていた。

五指は根となり腕の蔦は肩まで絡みつき、樹皮からは新たな葉が芽吹いていく。

ナルギレがゆっくりとキギに近づいた。


11_伐採 「舐めるなよ? 俺がお前を殺すつもりなら、声などかけずにそのまま首を刈っていた」

重力に逆らえずしなだれたキギの頭を髪ごと掴み、首に刃を突きつけるナルギレ。


「どの道お前はもう長く生きられない。ここはあの森の何千倍もの瘴気があるからな」


「……瘴気……?」

息をするのもやっとの声で、キギが言葉を返す。



「お前らが患っているのは森の毒でも風土病でもない。瘴気なんだよ」



その言葉を受け止めることもできないまま、キギの意識が混濁していく。

全身の硬直が始まった。



「オイ、死ぬな! 最期に聞きたいことがあるんだ! あの男に会ったんだよな!? あの男は――」


ゆっくりとキギの目が閉じられていく。生を諦めた者の重みがナルギレに伝わる。



堰を切ったようにキギの服や髪の隙間から無数の蔦が生え、掴まるものを求めるように伸長する。


ナルギレは掴んでいた腕を取られそうになり、慌ててキギの遺体を手放した。


「っ畜生!!」

11_キギ負け

遺体は、まるで木陰にもたれるかのように打ち棄てられた。肌の樹皮が首から全身へと広がってゆく。
身に着けていた服にはたちまち緑の苔がむし、灰のように朽ちていった。




ナルギレはそれを横目で見送ってしばし何かを逡巡したのち、かつてキギだったものに大鎌を立てかけてやった。





鎌の柄を抱きしめるように蔦がゆっくりと絡みつき、成長はそこで止まった。


12_死






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第8話


本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります





00_ロゴ




―本隊上陸 2ヶ月前―





男のような声が、聞こえる。

「なあジェーン、今日はお前を殺した奴を探しに来たんだ。少し落ち着いたらどうだ?」


女のような声が、それに応える。

「いやだわジェーン、どんなときも喜びを忘れないのが私よ」


カップルのような声が、生気を失い静まり返る廃墟にこだまする。

「見てジェーン。素敵な廃墟に力強い緑と綺麗な白い雪のコントラスト。フフフ、あなたのピアノで踊りたくなっちゃう」


「こんなところで足を滑らせてもみろ。次は雪を殺さなくちゃならなくなる」


「いつもあなたは心配性ね。ほら、捕まえてごらんなさい」

声は、ふたつ。

姿は、ひとつ。






01_kk.jpg
細かなビジューが施された純白のドレス。

そのAラインが収束する腰には擲弾と、小型のガラス筒と、抑圧されたコルセット。

細くやわらかいブロンドの隙間からは、ゴーグルに革で歪に接がれたマスクが見える。

優しげなレースで編まれたな日傘の柄には、マスケット銃の台尻。


アンバランスの極致を体現したような存在が、ジャングルの中ひとり、くるくると踊っている。




常夏に降る雪。朽ち果てた部族の痕跡。怪しく匂う、まだ見ぬ宝玉。
その匂いを嗅ぎつけた招かれざる客たちにより、安寧はみだされてゆく。

もはやこの島に普通は存在せず、常識は通用せず、静寂は意味を成さない。



02_狂った踊り ただし、異常で非常識な騒々しい客人には、それ相応のもてなしが待っている。

「あー、そこの女? 止まるネ」

ジェーンを呼び止める声。

新たな声の主もまた、女であった。



03_ユーホァ 黒いドレス、黒いまとめ髪に黒いマスク。
黒尽くめに映える吉祥の結び飾り。
子供の頭よりも大きな錘には金色の龍があしらわれている。


中華の女人、清の暗殺者。名をユーホァと言う。




04_立ち話 「あら? あなたみたいな人、あの船にいたかしら?」

「船? 知らない。 ワタシここではじめまして。アナタ、宝玉を盗みに来たひとり? そうは見えないケド」

ユーホァがジェーンの服に視線をやる。
ジャングルにも廃墟にも溶け込めない、その真っ白なウェディングドレスである。

その格好で何かを盗み出すのであれば、あまりにも目立ちすぎる。


「まあ! ナタリアの言ってたことは本当だったのね! とっても素敵! 皆もきっと喜ぶわ!」


屈託無く喜ぶジェーン。英国女王の宝玉を奪う気概は感じられない。

ユーホァは呆れたように双錘をくるくると回す。

「ホントは背後からアナタ殺すつもりだたケド。どう見てもそれ宝探しする格好ジャナイ。宝玉取るつもりないナラ見逃してあげる」




05_挑発 「ホラ、さっさと島から出ていくネ」

指令があろうとも、無駄な殺しはしない。今日上陸した者たちの元々の目的は島の地質調査だと聞いている。
調査も探検も不向きな目の前の異物は放っておいても何もできないだろう、と言う判断だ。


しかし、ユーホァの容赦をジェーンは違う形で捕らえていた。




「ころす? わたしを? ねえジェーン、この人、わたしを『ころす』って 」

「殺す? お前を? こいつがお前を殺すのか?」

「ええ、そう、わたしをころすって」


しとやかなジェスチャーをしていたジェーンの指が、わなわなと震え、硬く握り締められる。

その拳に籠められた意味は、明らかな敵意。

愛するものを、私(ジェーン)自身に害なすものを徹底的に排除する殺意だった。

腰に提げたガラス筒の先端をマスクに挿入する。側面には「OPIUM」の文字。

マスク内に供給された蒸気を一身に吸うと、ジェーンの視界はヂリヂリと明滅した。

急速に持ち上がる吐き気のような怒りが、喉から煙と共に噴き出した。





06_怒り心頭 「殺させない! お前をもう二度と! ジェーン(わ た し)をもう二度と!!!」


フルフェイスのマスクから顎がはみ出るほどの怒号と共に、ジェーンがドレスの裾を割り開く。

煌びやかな絹の合わせ目から無骨なクリノリンが展開し、鎌首をもたげる蛇のように二丁の機関銃が顔を出した。


「それがアンタの正体。面白いネ」

「ウオオオオオオオオオ! コロス! コロスモノハコロスゥゥゥゥ!」

「でも……阿片の強烈な匂い、それだけは許さナイ」


07_乱射 日傘をライフルめいて持ち替えたジェーンが、髪を振り乱しながら突進する。

一斉掃射。3つのマズルフラッシュがユーホァに向けて放たれる。



だが、ユーホァは既にそこには居ない。

最初の弾丸が空を斬り、地面を叩く前にユーホァはジェーンの真横にまで迫っていた。
あたかも神仙伝が如く地を縮めるように懐まで滑空したユーホァは、すれ違いざまにジェーンに双錘を叩きつける。
後頭部と腰椎へ互い違いに鉄球がめり込み、限界を超え砕かれる。



最終的にジェーンの体は、振り回された人形のように軽々と宙を舞い、


08_無双乱舞


ユーホァの後ろに落ちた。











09_死体 破壊されたジェーンの頭部からマスクが剥がれ落ち、無精髭が覗いている。
マスクに刺さったガラス筒の"OPIUM"とは、阿片である。


英国はインドで栽培し製造した阿片を清に密輸し、組織的に販売して収益を得ていた。
阿片を禁じていた清との間で戦争となったが、勝利した英国は清に耐え難い不平等条約を結んだ形で終結させた。



「アンタが死んだ女をいつまでも想うは勝手。ダケド、牙向く相手、間違えたようネ」



阿片の効用は使用者に抗えぬ恍惚をもたらすが、常用はやがて精神錯乱を伴う。










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第7話


本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります






000_自己紹介


ムーチョグスト!こんな辺鄙なブロゴを読んでる君の名前を教えてよ!


身長は?体重は?好きな体位は?

あ、自己紹介がまだだったね。俺サマはエル・カクタス!

君と同じくクソ辺鄙な島で七面鳥を撃ちにきたガンマンさ!


この島にはコヨーテもキツネもいないけど、とっても美味しいターキーが狩れるって聞いてさ!
もう俺サマ ギンッギンなわけ!

おっとそろそろ獲物の登場だ。

アミーゴスはそこで事の一部始終を見守っていてくれ!では5分後にまた会おう!チャーオ!





































00_ロゴ

―本隊上陸 2ヶ月前―


島の中心に向かって深くなる雪は、もはやここに至りブーツの足首を隠すほどにまでなっていた。

ナタリアは林を迂回したところで坑道を見つけた。

昔はここも何かを採掘していたのだろうか。単にジャングルを安全に通り抜けるために作られた地下通路なのだろうか。

上陸してから今まで雪は一度も降っていないが、この寒さである。

何度も降ることがあれば、この坑道すら埋もれてしまうのではないか。


かつて繁栄を極めていたであろう密林を、存在していたであろう僅かな文明の痕跡を、雪は静かに白く塗りつぶしていく。

本能的か、計算の果てか。どちらにせよ、ナタリアは雪を避けるように坑道を選んだ。


プロイツ帝国で産まれ、大公国で育ったナタリアである。寒さにも、雪を走ることにもめげることはなかったのだが

ここに積もっている雪は、踏みしめるたびに精神力が削り取られていくようだった。

もうすぐで坑道を抜ける。トンネルに採掘するための横道が無かったと考えると、単にこれは通路なのだろう。

一刻も早く宝玉を見つけて、この不気味な雪の島から離脱したい。


「そういう前フリもうみんな聞き飽きてると思うんだよねー!!!!」




01_オッラー

トンネルを抜けて、目に飛び込んだのは、緑の仮面を被った男だった。

粗雑なソンブレロに鋳鉄でできた三連銃の意匠。赤いマントに緑の仮面。その奥に無精ひげ。
メキシコ人の様な出で立ちで、手には何らかの改造が施されたマチェーテを携えている。

「やっとバトル回になったと思ったら前日譚なんて、構成メチャクチャ過ぎない? アミーゴスついていけてる?」

その言葉はナタリアには向けられていない。どこか明後日の方向に対して叫び続けている。だが、自分の存在について言及しているようだ。

「そっか君には自己紹介まだだったよねー!」
不意に首が真反対であるこちらを向き、あとから体が反転した。





02_エルカクタスだよ
「iHola! 俺サマ、エル・カクタス!元気かいセニョーラ!南の島での冒険、実にご苦労サッマ!」

エル・カクタスと名乗るその男は、馴れ馴れしくナタリアの肩を叩いた。
思わず飛びずさるナタリア。


「でもー?島の中心に向かっている通路なら、その先に何か素敵なモノでもあると思ったー!? 残念ハズレー!!」

さっきまで虚空に向かって叫んでいた男が、今この瞬間、坑道の軒先に腰掛けて嗤っている。

「いや、大当たりかな?俺サマと出会えた君は実にスエルテなセニョーラだ! なにせ俺サマは――」

いったいどうやって近づいた?
その上マチェーテを持っている状態で肩を叩かれた。もし相手に攻撃する意思があれば背後から容易に切り殺されていただろう。

「ルズデラモンタニャ……コヒヌールの在り処を知っているからネ!」

ナタリアは即座に腰の鎌を抜き、分銅を構えた。





03_危ない危ない
「あなた……なぜそれを!」

「それを?それをなんだい?『なぜそれを知っている』かい?察しが悪いなあセニョーラ」

呆れたように手をひらつかせ、ナタリアを嗜めるエルカクタス。

「宝探しに無人島に来て、先客が居たんなら、それはもう先回りされたってことサ!」

瞬間、ナタリアから分銅が放たれる。サイドスローで投げられたそれは、挑発的に掲げられたエルカクタスの右腕に絡みついた。








04_絡め取り
「だったら話は早いわ……。あなたが持っているのか、もうこの島に無いのか、洗いざらい教えてもらうだけ!」

「イッホレ! なかなかやるじゃないか!」
坑道の軒に立つエルカクタスを引き倒し、鎖で捕縛する算段のナタリア。

しかし、いくら体重をかけても、まるで坑道の柱そのものと綱引きをしているかの如くエルカクタスはびくともしない。

「デモォー? でもでも生者の攻撃は俺サマには効かないんだよなー!?」

鎖が食い込んだ右手を、ナタリアごと引き上げるエルカクタス。

"綱引き"の主導権はいとも簡単にくつがえり、ナタリアは不均衡なシーソーのように、無抵抗で釣り上げられてしまう。


















05_引き寄せ
「そしてここは無人島……無人とはすなわち無法であることと同じ!
 甘い蜜に誘われてこんなトコまで来ちゃった愚か者の声は、殺されようと!犯されようと!誰にも届かないってワケさ!」

無様に釣り上げられたナタリアの顎に、鎖をかけるエルカクタス。

手で振りほどくよりも速く、鎖を首の後ろでクロスする。ナタリアの全体重が自らの頚椎に架かった。















06_ハング
「グッ……ググゥ……ッ!!」

体をよじる。両脚が空を蹴る。だが、自身を支えられる物はどこにもない。

視界が明滅し、意識が急速に混濁する。
――ああ、こんなことなら、真面目に働いて、プロイツに残した弟に、もう一度会いたかった――
















07_絶命
エルカクタスがヨーヨーで遊ぶかのように鎖を上下に揺さぶると、3回目でゴギリ、と鈍い音がした。

「モノローグに突っ込むのは野暮かもしれないけど、大丈夫!死者の日にまた会えるさ!」



















08_連れ込み
さあ!どうだったかな俺サマの華麗なる鹿討ちは!? あれ、七面鳥だったっけ?

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じゃ! 俺サマは、ちょっと用があるから!
狩った得物が、弛緩してるうちに、ヤること、あるからさ!(カチャカチャ)



その、なんだ、ブロゴを閉じろ!!!


アディオス!







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原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ
しめ鯖