第8話


本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります





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―本隊上陸 2ヶ月前―





男のような声が、聞こえる。

「なあジェーン、今日はお前を殺した奴を探しに来たんだ。少し落ち着いたらどうだ?」


女のような声が、それに応える。

「いやだわジェーン、どんなときも喜びを忘れないのが私よ」


カップルのような声が、生気を失い静まり返る廃墟にこだまする。

「見てジェーン。素敵な廃墟に力強い緑と綺麗な白い雪のコントラスト。フフフ、あなたのピアノで踊りたくなっちゃう」


「こんなところで足を滑らせてもみろ。次は雪を殺さなくちゃならなくなる」


「いつもあなたは心配性ね。ほら、捕まえてごらんなさい」

声は、ふたつ。

姿は、ひとつ。






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細かなビジューが施された純白のドレス。

そのAラインが収束する腰には擲弾と、小型のガラス筒と、抑圧されたコルセット。

細くやわらかいブロンドの隙間からは、ゴーグルに革で歪に接がれたマスクが見える。

優しげなレースで編まれたな日傘の柄には、マスケット銃の台尻。


アンバランスの極致を体現したような存在が、ジャングルの中ひとり、くるくると踊っている。




常夏に降る雪。朽ち果てた部族の痕跡。怪しく匂う、まだ見ぬ宝玉。
その匂いを嗅ぎつけた招かれざる客たちにより、安寧はみだされてゆく。

もはやこの島に普通は存在せず、常識は通用せず、静寂は意味を成さない。



02_狂った踊り ただし、異常で非常識な騒々しい客人には、それ相応のもてなしが待っている。

「あー、そこの女? 止まるネ」

ジェーンを呼び止める声。

新たな声の主もまた、女であった。



03_ユーホァ 黒いドレス、黒いまとめ髪に黒いマスク。
黒尽くめに映える吉祥の結び飾り。
子供の頭よりも大きな錘には金色の龍があしらわれている。


中華の女人、清の暗殺者。名をユーホァと言う。




04_立ち話 「あら? あなたみたいな人、あの船にいたかしら?」

「船? 知らない。 ワタシここではじめまして。アナタ、宝玉を盗みに来たひとり? そうは見えないケド」

ユーホァがジェーンの服に視線をやる。
ジャングルにも廃墟にも溶け込めない、その真っ白なウェディングドレスである。

その格好で何かを盗み出すのであれば、あまりにも目立ちすぎる。


「まあ! ナタリアの言ってたことは本当だったのね! とっても素敵! 皆もきっと喜ぶわ!」


屈託無く喜ぶジェーン。英国女王の宝玉を奪う気概は感じられない。

ユーホァは呆れたように双錘をくるくると回す。

「ホントは背後からアナタ殺すつもりだたケド。どう見てもそれ宝探しする格好ジャナイ。宝玉取るつもりないナラ見逃してあげる」




05_挑発 「ホラ、さっさと島から出ていくネ」

指令があろうとも、無駄な殺しはしない。今日上陸した者たちの元々の目的は島の地質調査だと聞いている。
調査も探検も不向きな目の前の異物は放っておいても何もできないだろう、と言う判断だ。


しかし、ユーホァの容赦をジェーンは違う形で捕らえていた。




「ころす? わたしを? ねえジェーン、この人、わたしを『ころす』って 」

「殺す? お前を? こいつがお前を殺すのか?」

「ええ、そう、わたしをころすって」


しとやかなジェスチャーをしていたジェーンの指が、わなわなと震え、硬く握り締められる。

その拳に籠められた意味は、明らかな敵意。

愛するものを、私(ジェーン)自身に害なすものを徹底的に排除する殺意だった。

腰に提げたガラス筒の先端をマスクに挿入する。側面には「OPIUM」の文字。

マスク内に供給された蒸気を一身に吸うと、ジェーンの視界はヂリヂリと明滅した。

急速に持ち上がる吐き気のような怒りが、喉から煙と共に噴き出した。





06_怒り心頭 「殺させない! お前をもう二度と! ジェーン(わ た し)をもう二度と!!!」


フルフェイスのマスクから顎がはみ出るほどの怒号と共に、ジェーンがドレスの裾を割り開く。

煌びやかな絹の合わせ目から無骨なクリノリンが展開し、鎌首をもたげる蛇のように二丁の機関銃が顔を出した。


「それがアンタの正体。面白いネ」

「ウオオオオオオオオオ! コロス! コロスモノハコロスゥゥゥゥ!」

「でも……阿片の強烈な匂い、それだけは許さナイ」


07_乱射 日傘をライフルめいて持ち替えたジェーンが、髪を振り乱しながら突進する。

一斉掃射。3つのマズルフラッシュがユーホァに向けて放たれる。



だが、ユーホァは既にそこには居ない。

最初の弾丸が空を斬り、地面を叩く前にユーホァはジェーンの真横にまで迫っていた。
あたかも神仙伝が如く地を縮めるように懐まで滑空したユーホァは、すれ違いざまにジェーンに双錘を叩きつける。
後頭部と腰椎へ互い違いに鉄球がめり込み、限界を超え砕かれる。



最終的にジェーンの体は、振り回された人形のように軽々と宙を舞い、


08_無双乱舞


ユーホァの後ろに落ちた。











09_死体 破壊されたジェーンの頭部からマスクが剥がれ落ち、無精髭が覗いている。
マスクに刺さったガラス筒の"OPIUM"とは、阿片である。


英国はインドで栽培し製造した阿片を清に密輸し、組織的に販売して収益を得ていた。
阿片を禁じていた清との間で戦争となったが、勝利した英国は清に耐え難い不平等条約を結んだ形で終結させた。



「アンタが死んだ女をいつまでも想うは勝手。ダケド、牙向く相手、間違えたようネ」



阿片の効用は使用者に抗えぬ恍惚をもたらすが、常用はやがて精神錯乱を伴う。










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原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


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