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第9話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります


私は、あの国を許さない。


私は、先祖を許さない。


私は、家族を許さない。




許せるものが無くなって、私は、独りで生きていくことにした。


水と日光さえあれば何週間も生きていけるこの体で、生まれ育った森を抜け、コンスタンティノポリスから更に西に。

列車と貨物船にまぎれ、イギリスへと逃れる遥かな旅路。


日雇いのわずかな路銀で、2年かけてたどり着いた。


それでも、私を苛むこの左手を治す医者は



00_キギ


イギリスにも居なかった。









01_ロゴ









キギはタフタである。




タフタとはオスマン帝国の攻略によってコンスタンティノポリスから内陸のさらに奥の森へ追いやられた一族を指す。

タフタの一族は絹織物作りに長け、様式化された花文様と幾何学模様は世界中で重宝されていた。








進軍に追われ森に身をやつしたタフタ達は、今度は麻や綿で布を織った。
彼らの織る青や緑は自然への敬意と畏怖の表れによるものである。

過酷な自然に順応しようとする彼らに、今度は森自身が牙をむいた。


風土病の蔓延である。


罹患すると体温が下がり、食物を受け付けなくなる。
四肢の筋肉は硬直し、肌は朽ちて次第に苔と蔦が絡まるようになる。

肌の樹皮化は加速度的に全身へ進行し、やがて意識を喪失する。

しかし心臓が停止しようとも、遺体は腐らない。

タフタの一族はこれを「森への回帰」と考え、
              ・・・
全身が硬直した遺体をその地へ植えた。


キギはその儀式から抜け出したタフタであった。



02_捜索



林を抜け、坑道を避けて川を渡り、島の中央部へ。


キギは先へ進むことを拒むような雨林のうねりを造作無く越えていった。


島の大地を薄く覆っていた雪はある地点から急に無くなっており、にわかに気温が上がり始めている。

それまで島のあちこちで散見されていた集落のような廃墟はもう見当たらない。


代わりに石造りの小さな祠が、まばらに見られるようになった。

それらの正面と思われる側は一様に島の中心部を向いている。


英国女王の宝玉がなぜこの島にあるのかは不明だが
この島に何かが奉られているとすれば、それは間違いなく進行方向の先にある。
キギの予想は、半ば確信めいたものだった。

祠の間隔が短くなり、道はどんどんと険しくなってゆく。


そして、幾度目かの断崖を登った先に。



03_発見

「見つけ……た……!」



キギは島の最奥へとたどり着いたことを理解した。


島に点在する無数の道標である祠が同心円状に向き直る高台。

その中心にひときわ大きな祠があった。ここが島の中央である。


キギは辺りを確認する。ヴァイスもナタリアもまだここへは来ていないようだ。




しかし気付くことができない。ヴァイスもナタリアも殺された真実に。





04_忍び寄る影




その魔の手が自らにも及ぶという必然に。




05_忍び寄る影2



「木人が一番乗りとは、皮肉なものだな。おい」







06_おい


背後からキギの肩を無造作に掴まれた。


「誰」「近づかれ過ぎた」「どうやって」「知らない声」「敵か仲間か」「武器は」「怪我したか」「足音は無かった」

散発的な思考が明滅し、結論も出ぬ間に飛びずさった。



しかしキギは見る。相手の姿を。

大きなターバン、腰に提げたヤタガン。三日月の首飾り。「木人」。

瞬間、全ての論理的思考が消し飛び


目の前の男が殺すべき対象に変わった。








07_威嚇  

「イェニチェリイイイイイィィィィィィィィ!!!」



構えた大鎌を横薙ぎに振り抜く。

しかし目の前の男は、まるで強風に煽られた新聞紙をはたき落とすかのように軽々と踏みつけた。



「ハッハ、親父の仕事で呼ばれても困る。俺にもナルギレって名があるんでな」

08_振り向き


ナルギレと名乗ったその男は、キギに警告する。

09_武器止められ 「おっと抜こうなんて思うなよ。お前はもう俺の間合いの中だ」

ナルギレが半身で相対した後ろ側、左手は既にヤタガンの柄に添えられていた。


大鎌を抜けば切られる。後ろに逃げれば武器を見捨てる上に、崖に阻まれる。実質退路はない。


だが、キギの思考は目の前の男への怒りのみがあった。

「お前たちは!200年前にタフタを森へ追いやった!私たちを森の毒に塗れさせたこの屈辱を! 私は! 私は決して!」

相手を声で破壊しようとさえ思えるほどの衝動が、怒号としてナルギレにぶつけられる。

「私は決して許さない! この体を! あの森を!! 逃げたタフタを! 貴様達イェニチェリをォォォォ!!!!」



ナルギレは意にも介さない。

「そう熱くなるな。”反応”が進むぞ」


先祖と自分の汚辱を、ここで刺し違えても雪ぐ。


キギは大鎌を引き抜いた。

しかし、振りかぶろうとした体は大きくバランスを崩し、キギは地面に倒れこんだ。

体に力が入らない。全身の血の気が引ききったような眩暈に襲われ、立ち上がることすらできない。


「グッ……ウゥ……ッ!!」



10_樹木化
・・・・・・・左手が動かない。否、衝いた左手が地面に根を張っていた。

五指は根となり腕の蔦は肩まで絡みつき、樹皮からは新たな葉が芽吹いていく。

ナルギレがゆっくりとキギに近づいた。


11_伐採 「舐めるなよ? 俺がお前を殺すつもりなら、声などかけずにそのまま首を刈っていた」

重力に逆らえずしなだれたキギの頭を髪ごと掴み、首に刃を突きつけるナルギレ。


「どの道お前はもう長く生きられない。ここはあの森の何千倍もの瘴気があるからな」


「……瘴気……?」

息をするのもやっとの声で、キギが言葉を返す。



「お前らが患っているのは森の毒でも風土病でもない。瘴気なんだよ」



その言葉を受け止めることもできないまま、キギの意識が混濁していく。

全身の硬直が始まった。



「オイ、死ぬな! 最期に聞きたいことがあるんだ! あの男に会ったんだよな!? あの男は――」


ゆっくりとキギの目が閉じられていく。生を諦めた者の重みがナルギレに伝わる。



堰を切ったようにキギの服や髪の隙間から無数の蔦が生え、掴まるものを求めるように伸長する。


ナルギレは掴んでいた腕を取られそうになり、慌ててキギの遺体を手放した。


「っ畜生!!」

11_キギ負け

遺体は、まるで木陰にもたれるかのように打ち棄てられた。肌の樹皮が首から全身へと広がってゆく。
身に着けていた服にはたちまち緑の苔がむし、灰のように朽ちていった。




ナルギレはそれを横目で見送ってしばし何かを逡巡したのち、かつてキギだったものに大鎌を立てかけてやった。





鎌の柄を抱きしめるように蔦がゆっくりと絡みつき、成長はそこで止まった。


12_死






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原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
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