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第15話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります



00_ロゴ  

腕利きの用心棒、西の魔術協会の秘蔵っ子であったヘンゼルの死は捜索隊の足を挫くに余りあった。

この無人島に未だ潜む刺客に対抗する戦力は残されていない。

それでも貴族議員ファラメルディアスは頑として大英帝国の秘宝「コヒヌール」の捜索を続けようとする。

依頼主の主張と隊の士気が反比例する中、膠着を剥がしたのはポワゾンだった。



「私たちが捜索を続けるにせよ帰るにせよ、このままではヘンゼルさんの遺体は朽ちてしまうでしょう。直ちに遺体を洗浄、保存します」



ポワゾンは大口鞄を抱え、近くの川に降りていった。

川の水は存外温かく、この島全体が雪に覆われているわけではないことが分かる。


ほとりまでヘンゼルを運んだセイヤンと翡翠は手伝いを申し出たが、彼女はそれを断った。
「そのかわり雪が集められる場所を探してきてください。雪中であれば腐敗の進行を遅らせることができます」

ひとり、粛々と処置を進めていく。消毒して血を抜き、腹部から腸を除去して縫合。いくつもの薬品を注入していった。



元来、彼女は薬剤調合師を目指す研究者であった。


産業革命のもたらす科学は発展を第一として環境を破壊しつくし、オートメーションの波は人から雇用と健康を奪っていった。

「人々に安価な薬を調合する」その貴い志に反して自らの生活は厳しくなり、糊口をしのぐためには違法な薬品を捌くしかなかった。大義を成す前の小さな悪事は、最終的に自らを冒していった。

薬品の横領を疑われた彼女は研究所を追われるように去り、医療の行き届かない貧民街で医者と名乗り生きるようになった。


空腹を紛らわすために感覚を麻痺させ続けた体は中毒でボロボロになり、目はやつれ肌は軋み、頬はこけていった。



困窮する中で、「14番街に腕の立つ闇医者がいる」と聞きつけた侘助の依頼はくすぶっていた自分の心に再び火をつけた。

最終的な依頼達成の報奨金があれば、自らの病院に十分な医療設備を揃えることができる。


ポワゾンは、ありったけの薬品を鞄に詰めて街を出た。





医者とは、死と向き合う仕事である。

この旅で自分の装備が軽くなるようなことは起こるべきではないが、しかし、そのために自分がいる。

いま此処にあっては、ヘンゼルの最期の尊厳を守ることがポワゾンの職務である。



背後で足音が聞こえた。


「いい場所はみつかりましたか」

振り返った先には、セイヤンでも翡翠でもない男が立っていた。



01_オッラー



「オッラーーーーーーーーーーー!!!!アミーガーーーーーーーーーーー!!!!」


緑の仮面が、島中に響き渡るような絶叫で応えた。
凍えていた鳥たちが飛び去り、木々が揺れる。

ポワゾンは一瞬で理解する。この男が捜索隊を脅かす刺客であると。


「んっんーー!? これはこれは調理済と調理前のご馳走だ! 食べがいがありそうだ」


「あんたがヘンゼルを暗殺したの」

ポワゾンはヘンゼルの遺体を遮る。

「暗殺なんて性分じゃないよ。恐怖に怯える顔を見れないなんて勿体なーい!!」

「誰であろうと、目的がなんであろうと、死者を侮辱することは許さない。私がいる限り」



02_守る 「でも残念だァ」

赤いポンチョを翻したかと思うと、仮面の男は一瞬でポワゾンの背後に立っていた。

まるで空間を出入りしているかのように音も無く現れたそれは、ポワゾンの顎をむんずと掴み、自分の顔に引き寄せた。


仮面の穴の下から、果物の選別をするような目がこちらを覗いた。

「オマエの体はボロボロ。あんまり美味しそうじゃないね」

口角がマスクに隠れるほど吊りあがり、不快な笑みを浮かべている。
隙間だらけの歯から溢れる、男の反吐が出るような悪臭に思わずポワゾンは手を振り払い突き飛ばした。



ポワゾンは身構えるが、男は意にも介さず自らを指差す。

「申し遅れました! オレ様は!! エル=カクタス!!! この世界が”この世界”であることを識っている、ただひとりの常識人さ!!」

仮面の男エル=カクタスは両手を広げ、抱擁を求めるかのようにゆっくりと近づいてゆく。


ポワゾンは腰の注射器を引き抜いた。

先に仕掛けたのは彼女であった。注射器を短剣めいて突く。

カクタスの――ポンチョに隠れて判別は付かないがそれでも――中心を狙った一撃は、確かに体の芯を捕らえていたはずだった。

左腕が伸びきる直前、男の体は霞の如く消滅した。そして同時にポワゾンの真横に現れた。

「!!?」

視界はふたつの現象を同時に捕らえていた。
超スピードでもちゃちな催眠術でもなく、男が瞬間移動したことをポワゾンは理解した。


03_バトル 「オレ様には、剣も! 銃も! もちろん注射器だって効かなァい!!」

カクタスは伸びきったがら空きの左手を掴み、力任せに放り投げた。
赤子に蹂躙されるぬいぐるみのように吹き飛び、ポワゾンは受身も取れずに地面に叩きつけられた。


「ナイフで刺されたら痛いだろう? 弾が体に当たったら痛いだろう? みんな知ってることさ」

息ができない。肋骨と右上腕が折れている。



「じゃあなぜ人間はそれでも傷つくんだ? リンカーンは何故死んだ? 車の事故はなぜ無くならない? 」


「……避けられないからさ」

うずくまることしかできないポワゾンの視界からカクタスが再び消え、後ろから髪を掴み上げられる。

「オレ様は違う。この世界を好きに出入りできる。銃弾が当たるなら“一旦出れば”いい。お前を遠くへ投げ飛ばしても、こうやっていくらでも近道できる。……ンまあ、この島まではさすがに船で来たけどネ」


そう言って、自らが投げ捨てたぬいぐるみを再び持ち上げる。


04_窮地 「ハアアアアン Se siente bien……!この瞬間が一番気持ちいいぃぜ……!」

手入れのされていないマチェーテが、持ち上げられた首元に添えられる。

「ゆっくり……ゆっくりィ……手を離してイくからね……!!」

「っぐ……!!」

ポワゾンは握りしめていた石を投げるが、カクタスには当たらない。


明後日の方向に投げられたそれをカクタスは目で追おうともせず、ガチャンと石が音を立てるとともに吹き出した。


「……グッフフ!? 今のなに? なにソレ!? 必死の抵抗ってヤツ!? なかなかウブなリアクションするじゃないかアミーガ!  とっても無様でポイント高いよ~」

興奮に息を荒げる。手の力が一段階弱まり、ポワゾンの喉に刃が触れる。つぷ、と赤い玉が剣を伝った。



「オマエは今投げた小石のようなもんさ。オレ様に傷ひとつ付けられない」

カクタスはサディスティックに笑った。

しかし、ポワゾンも笑っていた。それは今から殺される人間の顔ではない、生者の目だった。


「そんな顔するなよアミーガ、萎えちまうだろ? 死ぬ直前まで足掻いてくれよ!……?……あ?」


05_驚愕 カクタスの視界がぐにゃりと歪み、思わずよろめいた。

両手が離れ、解放されたポワゾンはなんとか立ち上がる。



「オマエ……何を!?」


ポワゾンの視線の先を見やると、そこには白煙を噴き出している彼女の鞄があった。


彼女の投げた石は、確かに目標を破壊していたのだ。

鞄に満載された劇薬の瓶は割れ、あるものは反応を起こし、気化して噴出した。

この煙の主な成分は、遺体保全に使われるヒ素である。




「この島を渡るほどは移動、できないって……? じゃあもう、助からないね……。小石を見くびった……あんたの負けだ」

崩れ落ちるカクタス。

「解毒……! 解毒……! げ……!!」

無様に這って鞄に近づき、一層煙を吸い込んだカクタスはそのまま息絶えた。




06_相打つ
「この島に医者は"もう"居ない……ここで私と共に朽ちるんだ……」



肺を損傷し、呼吸が浅いことが幸いしていたポワゾンも、もう限界だった。





地面の雪で冷えたガスが、暖かい川下の方にゆっくりと流れていく。

この毒は、もう誰も傷つけないだろう。



そのことに安堵したポワゾンは、穏やかに目を閉じた。







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原案・文章(マイケル)
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