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第19話

本記事は2018年1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります





 
00_ロゴ その日、トルコの傭兵ナルギレは茂みの陰から様子を窺っていた。


大英帝国のダイヤモンド奪還を狙うファラメルディアス一行。その拠点の情報をセイヤンから手に入れたマッドの提案で、ナルギレは捜索隊を挟撃することになった。

「お前が追い立てる。俺が全員殺す。ハッハー! イェニチェリにゃ簡単な仕事だろう?」

信念もなく、殺人の快楽と金ために雇われたマッドに手を貸すのは甚だ不本意ではあったが、ナルギレはその作戦に同意した。



イェニチェリ。
17世期のオスマン帝国において規律と最新兵器の導入で栄華を極めていた君主直属の歩兵軍も、産業革命が起こり武器の近代化が飛躍的に進んだ今となっては時代遅れのお荷物でしかなかった。


ナルギレは世襲制に変わり堕落の一途を辿るイェニチェリを抜け出し、暗殺を生業としてきた。

愛する女を残したまま家を捨て、紛争地域に民兵として出向いては人を殺して糊口を凌いだ。

大英帝国が植民地支配を狙い、反乱が絶え間なく起こるパンジャーブで要人暗殺を引き受けた折、共に行動したのがセイヤンだった。


「貴方のその力が欲しい。盗賊からダイヤを守り、アジアを大英帝国の支配から解放するのです」

声をかけられた時は、何かの比喩だと思った。

だがそれが比喩でも冗談でもないことはすぐに分かった。任務を完了したその足で連れてこられた無人島に、ダイヤモンドは確かにあったのだ。



島の中心部、朽ちた祠の地下に通されると、ナルギレは静かに驚いた。

人の気配のない文明の跡地で、眩い照明にてらされたそれは、青く光り輝いていた。


「この部屋が明るいのは蒸気機関によるものではありません。ダイヤと、この島の瘴気で動いています」

部屋の中央に厳かに祀られていたダイヤモンドをセイヤンが手に取ると、部屋の灯りがわずかに明滅した。



01_昔話 「それは、英国女王のダイヤ……!」

「正確には『今のところ英国女王のダイヤ』です。このダイヤはムガル、アフシャール、ドゥッラーニ、パンジャーブの王の手に渡っていきました。そしてその全てを支配した大英帝国に簒奪されたのです」



「クーヘヌール……!」

ナルギレは叫んだ。大英帝国の、そして今、ひとりの男の手に握られているダイヤモンドである。

その名は、ペルシャ語で光の山を指す。


「クーヘヌールとは単なる美しさの暗喩ではありません。……この力を大英帝国に戻してはならない。弱い国は全て淘汰されます。分かりますね?」

今や大英帝国は、オスマン帝国を軍事的にも経済的にも支配していた。

君主を守る家系に生まれながらも衰退を辿っていくジレンマに苛まれて故郷を捨てたナルギレに、セイヤンの言葉は重く響いた。


ナルギレのマスク越しの瞳が動揺から決意に変わるのを、セイヤンは見逃さなかった。



2ヶ月前、セイヤンの指示通りダイヤを狙う若者たちがこの島を訪れた。

皆一様に武装していたが、ナルギレの敵ではなかった。
セイヤンが雇った他の暗殺者たちも、赤子の手をひねるように捜索隊を屠っていった。


そして現在、再び捜索隊が島に上陸。
スパイとして潜入したセイヤンと連携し、隊の壊滅を狙う。

ゆえにこうして茂みに隠れ、一網打尽の機会を窺っているわけだが――。

「~♪」 

視線の先にいるラバナーヌは朝餉の準備に夢中で、こちらに気づくことはなかった。

故郷の恋人と同じ位の歳だろうか。
鼻歌まじりに魚を捌き、川の水を火にかけ、野菜を茹でている。

その背中は、あまりに無防備すぎる。

2ヶ月前に殺した、欲望にギラついた目をしている人種にも、仲間の死をも厭わず命懸けでダイヤを奪還せしめんとするような人種にも思えなかった。

何回かの逡巡のあと、ナルギレはラバナーヌの正面から姿を現した。

02_お料理中 誰かの靴先が見え、仲間かと顔を上げたラバナーヌは戦慄した。

腰に大きな刀を提げた仮面の男、ナルギレが立っていた。

「……キャッ!?」

「騒がないことだお嬢さん。苦しんで死にたくはないだろう」

低くとも努めて優しい声でナルギレが忠告する。


03_失礼する 「……あなたが島の刺客なのね……!」

「ああ、だがあまり気乗りしない。仕事とはいえ、無抵抗の女子供はな」


「……?」

ラバナーヌは二・三言のうちに、自分の前に立つ男の心を垣間見た。

殺される者への哀れみ以上の同情を感じた。
それとも、私を誰かと重ねているのか。


何故だか非常に不愉快な気持ちだった。



「……ええ、なら私も仕事に戻らせて頂戴。お鍋が煮えているの」

ラバナーヌはあえて顔を逸らす。火にかけられ、グラグラと煮えている鍋を顎でさした。


「その料理は命を賭してまですることなのか? 」

「当たり前よ。人は食べなければ死んでしまうわ。食事は命をつなぐ行為だもの」


ラバナーヌは持っていたフォークを強く握りしめる。


「あなた、「なぜここに」って思ったでしょう。 「こんな呑気そうな女が」って」

ナルギレは何も答えない。

「私はね。いま、自分の意思でここにいるの。ダイヤも探せないし、剣も振り回せない。 でも、それができる人を支えるのが私の冒険なの」



04_勇者 フォークと鍋の蓋を剣と盾のように構えたラバナーヌは、この島に立つひとりの勇者だった。


「なるほど。ありがとう」

信念に応えるかのようにナルギレもヤタガンを抜く。


「kazan kaldirma(ならばここで鍋をひっくり返してやろう)」

05_一撃 風のような一閃。

振り払った刃は、ラバナーヌの横腹から胸までを肋骨ごと深く切り裂いた。






06_村焼き 血に塗れた刀身を綺麗に拭ったあと、ナルギレは落ちていた油壺と酒で地面に線を引き、線の上に黒色火薬を撒いた。



自分の考えが甘かった。この島に来る略奪者は全て敵だ。

焚き火の木杭を線の上に突き立てる。
地面を炎が走り、もうもうと煙を上げながら林の方へ向かってゆく。


敵は殺さねばならない。それが仕事だ。

しかし、それは正しいのだろうか。




07_退去 炎は答えを待たずに進む。
蔦を、茂みを燃やし、勢いを増して捜索隊を追い詰める炎の壁となった。






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原案・文章(マイケル)
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