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第20話

本記事は2018年1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります




00_ロゴ
捜索隊の野営地近くで食事の支度をしていたラバナーヌ。

それを一閃のうちに殺害したナルギレは、調理場の火で捜索隊の野営地近くに火を放つ。


炎は煙の渦を上げ捜索隊を追い立てる猟犬となった。
焼け落ちた枝葉が紙吹雪の如く舞い、太い幹が炎の柱と包まれる。


休んでいたファラメルディアスたち捜索隊は、ナルギレの計算通り森の東側へと誘導されていった。




拠点を離れ島の地質調査に出ていたミーナと翡翠も、立ち込めるきな臭さで島の異変に気づいた。



01_立ち込めてきたぞ ミーナが鞄から試験管を取り出すと、数種類の試薬と外気を混ぜて素早く振った。

「翡翠さん酸素濃度の減少と二酸化炭素濃度の上昇を確認しました。加えてごく微量の火薬燃焼の反応を確認。これは」

「んな大袈裟なことをしなくてもわかるさ。どっか燃えてんだろ。鳥は……」


翡翠は空を見る。

上空から火元を見る森の鳥たちは、皆一様に東の空へ飛んでいった。

「……まずいな、拠点の方じゃねえか」

「火薬ということは失火ではなく敵の放火です急ぎましょう!」


身を乗り出すミーナを翡翠は制止した。

「いや、轟々燃やして殺す気ならこの火は弱い。何人いるのか知らないが、これは俺たちを燻り出す気だ。だとすれば……」


二人は慎重に迂回するように戻っていく。



空気に混ざる煙の乾いた臭いが一層強くなるころ、見慣れぬ男が野営地の方を向いて立っていた。



02_こんちわ 赤いマントに星条旗のスカーフ。

大袈裟に折られたブリムのついたテンガロンハットには、安物のゴーグルが掛けられていた。


二人の気配に男はゆっくりと振り向くと、大仰に驚いたジェスチャーをしながらぐにゃりと笑った。



「おっとお? こりゃ計算外だぁ。逸れた羊がいたとはな」


翡翠は男をしっかりと見据える。


意外、喜び、侮りの表情。

おそらく火をつけた方の刺客、またはそれ以外の誰かから、捜索隊は全員野営地にいるはずと情報を受けていたのだろう。
しかし、自分とミーナがいないことを知らなかった。


2対1の状況においても、こちらが非武装であることに嗜虐的な笑みを浮かべながら

腰に提げた鞭でもフリントロック銃でもなく、爆薬筒に手をかけている。



「ああ、お前らの雑な追い立て猟は失敗って訳だ」

恐怖と緊張にミーナが押し黙る横で、翡翠は煽るように言葉を返す。


03_対峙 男の眉根がつり上がり、小鼻が広がる。

コミュニケーションの苦手なミーナにも判る、明らかな不満と威嚇の表情だった。


「ハ、 失敗? お前らはここでこのマッド様に殺されるのに? 」

「マッド? あぁお前、400人殺しのマッドか」


翡翠は名前から即座に相手を特定した。

“愛国者”アルマッド・ハミルトン。
元塗装工の脱獄囚。アメリカ中を放浪しては、子供や老人をいたぶり殺す快楽殺人者だ。


「なあマッド、もうじきファラメルディアスがここに来る。俺たちは逃げる。皆殺しにしたいんだろ?」

「……残念だが俺たちは弱者であっても馬鹿じゃないぜ。 そんなムズカシイ事がアメリカ人にできるのか? おいマッド!」


あえて指を刺し、名前を連呼する。

ガンマンなら十分に射殺を狙える距離で、相手はなお銃には手を掛けない。



「簡単だろうがぁよお!!!!」

マッドは爆薬筒を引き抜き、火をつけ振りかぶった。



「逃げろ!!」


マッドは逃走方向に筒を投げる。

的確な投擲だったが、二人の頭上を飛び越える瞬間、翡翠のバンジョーがそれを打ち返した。

ロビングのような軌道を描いて爆薬は明後日の方向に飛んでいき、茂みの向こうてドウ、と爆発した。



04_逃げろ 「はははザーコザーコ」
翡翠は大袈裟にバンジョーを担いで、尻を叩いてみせた。

「何やってるんです逃げますよ!!」

「てんめええええ!!!!」




05_作戦 直前までの地質調査のおかげか、地の利はミーナと翡翠にあった。


「ハア……ハア……ここまでくれば大丈夫でしょうかもっと逃げますか」

肩で息をしながらもミーナは一息で言葉を繋げる。


翡翠はしばし考えたのち、口を開いた。

「……いや戻ろう。これからまたマッドに近づくぞ」

「何故!? 非合理的で非生産的です無意味です!」

彼女が早口で捲し立てるのは発言が気持ちに追いつかないからだ、ということを翡翠は理解している。

どんな言葉を使っても、それ以上に脳が回転してしまうのだ。


「いいか。あいつは追いかけるのをやめた。 炙り出されるファラメルディアス達を殺すことを諦めていないからだ」

だからこそ、丁寧にゆっくりと諭す。

「あの爆弾の長い導火線を見ただろう? あれは喧嘩に使うシロモノじゃない。じわじわと追い詰めながら、相手がそこに近づく時間を計算して使うためのもんだ。銃も持っていたのに、それでもあいつは爆弾を使った。なんでだと思う?」

ミーナは導かれた答えに恐る恐る口を開く。


「……あれしかないから?」

「そうだ。もしくはあれを使うことに拘っているか……どっちだっていいさ。それを逆手にとって、あいつを殺そう」

殺す。

その言葉にミーナは思わず目を剥く。
学者と吟遊詩人。非武装の二人が、悪辣な快楽殺人者を返り討ちにすることなどできない、そういう表情だ。


怯えるミーナに、それでも翡翠は真剣に作戦を伝えた。


「行こう。ファラメルディアス達を助けられるのは、自由に動ける俺たち以外にない。そうだろ?」

「……合理的です」



06_コロス 殺す。

殺す。殺す。

全員殺す。絶対に殺す。全員殺す。絶対に殺す。


頭の中で何度も唱えたその言葉に、マッドは振り回されていた。

焼け出された捜索隊は早々に爆殺し、お楽しみはあの二人にしよう。

爆風の強い爆弾で、全身の骨を砕いてやろう。
動けなくなったところに、弱い爆薬を巻きつけて少しずつ爆発させてやろう。
丸裸にし、踏みつけて、川に沈め、木に括り、岩を落とし、一晩中可愛がってやろう。



遠くで足音が聞こえる。

見据えた煙の向こうから現れたシルエットは、ファラメルディアスではなく、学帽とバンジョーを携えていた。

激昂に全身が総毛立ち、身を潜めていたことも忘れ、マッドは雄叫びを上げた。

「おまえらああああああああ!!!!」

07_待てコラ 「反転! 頼んだぞミーナ!」

「任せてくださいマッピングは完璧です!」



煙の濃い方に走る。
マッドは今度こそと追いかける。

既知の倒木を越え、既知の小川を渡り、10m先の見えない煙の中でなお、二人は躊躇いなく進み続けた。



「到着しましたここです!」

「おう、焦って飛ばすなよ。これはマラソンだ!」

「分かっています計算通りです!」

身軽な二人は、マッドが追跡できるギリギリのスピードで逃げ続ける。
その道は緩やかに左に曲がり続け、やがて同じ場所に戻る円を描いたコース。

ミーナがこれまでの道すがらと周辺調査の結果したためられた、彼女独自の地図。
そこから選ばれた、今回の作戦に最適な逃走経路だった。


茂みや蔦や濃い煙のせいでそうと見えないが、走りやすい平坦な広場をマッドとミーナ達はぐるぐると追いかけあっていった。


「だあああああああ!!死ねよあああああ!!」


後ろに迫るのは憤怒のマッド。狂ったように爆弾に火をつけ、投げ込んでくる。


しかし待ち伏せ用の爆薬筒は炸裂前に、尽くが翡翠によって打ち返されていった。


「右に!右に!打ち返してください!」

爆破跡で逃走経路が同じだと悟られぬよう、翡翠は出来るだけ円の外側に打ち返していった。


「あと、何本!!」

「恐らく15本!!」

「よし内側入るぞ!」


周る円を徐々に狭めていく二人。
誘導されているとは気づかないまま、マッドは必死の形相で追いかける。


しばらくすると、爆薬筒が少なくなっているのを自覚したのか投擲のペースは落ちていった。

「ケチり始めたな!平均何秒だった!?」

煙と煤に塗れながら、翡翠が叫ぶ。

「全て20秒きっかりです!」

懐中時計を握り締め、爆音に負けない強さでミーナが叫ぶ。


「はは、あいつも几帳面だな。やるぞ!」

二人はさらに外周を狭めていく。


逃走を続けながらも翡翠は絶えずマッドの攻撃を打ち返す。

しかし今度は外側でなく、追いかけるマッドに向けて。

残弾が少ないマッドは好機とばかりに、足元に転がる爆薬筒を再度拾い上げて投げ返す。


「2回目!」
「応よ!」


ミーナの合図に翡翠が応える。
2度投げ返された爆弾は外側に。さっきよりも近くで筒が爆ぜる。
翡翠は吹き飛びそうなポーラーハットを押さえながら、横顔がビリビリと焼けつくのを感じた。



「死ね死ね死ね死ねええええええ!!」

ラリーが倍加し、そこかしこで爆発音が響き渡る。

爆弾魔と翡翠の攻防が続きながらも、円は狭まる。



1周が30秒に。25秒に。

そして20秒に。



マッドがルーチンワークのように足下の爆弾を拾う。

「……あ」

あるはずの導火線がない。


08_爆発 マッドが拾おうとしたそれは、翡翠があえて打ち返さなかった
1周前の爆弾だった。

マッドの眼前で、それは大きく爆ぜた。



09_やれやれ 腰から上が吹き飛んだマッドだったものの後ろから、疲労困憊の二人が現れる。

「……失敗したらあんな事になっていたと思うと、……私たち、よくやりましたね……」

ミーナはへなへなと腰を下ろす。

「帰ったら買い換えなきゃなあ……」

翡翠はバンジョーを見やり嘆息する。

たった一本で全てを退けたそれは、もはや弦をつけた歪んだ鉄の棒と化していた。



「しかし私たちがキャンプから離れていたのは幸いでした」

「マッドは……、俺が「お前ら」と呼んでも違和感を感じていなかった。複数犯なのは間違いないが、その割に俺たちが出掛けていることに気づいていなかった」


翡翠がなぜ自分たちが見逃されたのかを訝しんだ。

思案して空を見上げると、不意に大きな雨粒が顔に当たった。


「……スコールです!」

「天の恵みだな」


雨が煙を洗い流してゆく。

火はじきに消えるだろう。


今はただ、生き存えたことに感謝すべきかもしれない。

 






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原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


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