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第21話

本記事は2018年1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります



00_ロゴ 英国女王から秘密裏に奪われた幻のダイヤモンド、クーへヌール。
その奪還を狙う捜索隊を燻り出そうと企てられた火災は、一陣のスコールにより消し止められた。


捜索隊を挟撃すべく森の出口で待ち構えていた爆弾魔、マッドを返り討ちにした翡翠とミーナは、野営地へと急いだ。


そこで見つけたのは、ラバナーヌと思われる焼死体。
その横で泣きじゃくるモルゲンロートと、彼女をどうすることもできずにおろおろと立ち尽くしていたセイヤンの姿であった。


半ばパニック状態のモルゲンロートを翡翠がゆっくりとなだめる。


ぽつりぽつりと彼女の口から零れたのは、彼女が心神喪失するに余りある悲惨な事実だった。


モルゲンロートの通信機器がこの島に来て機能しなくなったこと。

それをファラメルディアスに打ち明けた矢先、圧力計の頭をした男に襲われたこと。

ファラメルディアスの死と、咄嗟の判断とは言え殺人を犯してしまったこと。

火事に気づき野営地に戻ってみると、ラバナーヌが死んでいたこと。



全てを打ち明けると、モルゲンロートは蹲み込んだまま動かなくなってしまった。

セイヤンが抱き起こし、乾いた地面に寝かせて自分の外套をかけた。


「依頼主のファラメルディアス様が亡くなられた今、捜索を続ける理由はございません。……モルゲンロート様は外傷はないものの、心身共にお疲れのご様子。明日の朝日を待って、島から出ましょう」

セイヤンの提案に、ミーナも翡翠も反論することはなかった。


男2人は火事の難を逃れた毛布と缶詰を跡地から見つけ出し、朝日が昇るまで交代で夜の番をすることにした。

ミーナは自分も番をすると言って聞かなかったが、まずは先に休むように言われて毛布をかけるとすやすやと眠りに落ち、起きる気配はなかった。


01_占い 深夜、翡翠は倒木に腰掛けて空を見上げていた。

ガラス製のアストロラーべを取り出す。今は午前2時だ。


ヘンゼル、ポワゾンが殺され、今日はファラメルディアスとラバナーヌが死んだ。

もはや英国女王のダイヤを探すどころか今晩を無事に生き残れる保証さえ無い。


ポケット水晶を取り出す。
青い球は眩い月の光とおぼろに反射する雲を受けて、地球儀のように斑にきらめいた。

翡翠はふと、昔に仕えていた主人の言葉を思い返す。



翡翠はかつてヨーロッパ小国に、宮廷の楽団員をしていた過去があった。

楽団員といえど儀典ばかりの堅苦しい仕事が嫌になった翡翠は、食事を絶って病を装い、仕事を辞めて国を出た。
今となっては占いや歌や芸で日銭を稼ぐ、気ままな吟遊詩人である。



02_かつては 音楽家でありながら、科学的見地……特に星見の知見があった翡翠は、ある時に王の戯れで「驚異の部屋」に通されたことがあったという。

その部屋は先代のコレクションで溢れ返っていたが、国王はガラクタの物置だと揶揄した。

世界中の奇本を集めた本棚に囲まれ、部屋の中央には水晶でできた大きな地球儀が鎮座し、紺碧に塗られ海とも宇宙とも言えないドーム型の天井には星座と魚の標本が漂っていた。


「地球は、宇宙から見れば青く輝いているのだという。この足元がか? 私には険しい山々と、税に喘ぎながらも必死で生きようとする民しか見えぬ」

王は自嘲気味に笑った。

「王は神ではない。唯の国の代表者だ。空想に囚われず、私の両眼で見えるところまでを治める範囲として、地に足をつけて政務に勤めねばならない。……だから我が国は狭いのだろうがな」



あの青い水晶の地球儀が指すどこかに自分は立ち、死の危機に瀕している。

たったひとつのダイヤのために、用心棒、医者、料理人、依頼主が斃れた。

自分にできることはなんだ?
楽器はマッドとの戦いで壊れた。

残されたものはなんだ?

握っていた水晶を覗き込む。


水晶占いとは、球体に映り出るイメージから未来を見出す占術である。

見出し方に明確なルールや正解はない。
結局のところ、水晶を通して歪んで見える色や形を見ながら、相手の思いや自分の思考を整理する手段に過ぎない。


俺たちは何故恐れているのか――いま、自らの死を間近に感じているからだ。
死に慄くのは、この島に潜んでいる刺客がいるからだ。
4人が殺され、放火までされた。マッドと手を組み、火をつけた人間が未だに潜んでいる可能性がある。ここは危険なのではないか?

しかし、今のところ誰かが闇に乗じて襲ってくる様子はない。
来ないのならば、火をつけた方の刺客はマッドが殺したか、炎に飲み込まれ死んだと思っているのだろうか。

ラバナーヌとは言え亡骸と一緒に寝るのは気持ちの良いものではないし、何よりモルゲンロートが怯えてしまうだろうと移動させようとした時に見た遺体の胸には――正視できなかったが――大きな傷跡があったように思えた。
おそらく刺客が斬り殺したのだろう。

刺客が火をつけた際にすでにラバナーヌが死んでいたのであれば、あのキャンプ地に残っている人間はセイヤンしかいない。自分はミーナと、モルゲンロートはファラメルディアスと外に出ていたのだから。
1人を炙り出すために森に火を放った?


――いや、それどころか、あの時、キャンプ地には誰もいなかった。


翡翠は思い出す。セイヤンはあの朝、見回りの番だった。


03_推理 続け様に思考が押し寄せる。

最初の違和感はこの島に上陸した時だった。
俺たちを雇った貴石屋・侘助が、ファラメルディアスが連れてきたというコーディネーターを見る目がどうも奇妙だった。

初めて見る人間の品定め以上に、あれは警戒の視線だったではないか。

04_回想1 次の違和感は、ガットリングガンを携えた虚無僧、鏘園に襲われた時だった。
初めての襲撃を受け、ヘンゼルとファラメルディアスの号令で俺たちは逃げた。
モルゲンロートは身を挺して捜索隊を守ってくれたヘンゼルを心配し泣き叫んでいた。
彼女が特別泣き虫なわけじゃない。用心棒のヘンゼルや従軍経験のあるファラメルディアスならいざ知らず、俺たち一般人が命の危険に晒されて平静でいられる方がおかしい。

その時、あいつはどんな顔をしていた?
05_回想2 違和感はまだある。
ヘンゼルが殺された時の絶望は半端じゃあなかった。
鏘園を返り討ちにした最強のヘンゼルが、朝起きたら死んでいたんだから。
ラバナーヌが竦み、ファラメルディアスが腰を抜かしていた。
普段から人の死に立ち会う、医者のポワゾンだけが冷静だった。
06_回想3 ……いや、もうひとり棒立ちの男がいた。
思い出した。


あの瞬間、俺は確かに見た。
あいつの顔を。
07_顔 目の前の死を何とも思わない、転がった空き瓶を見るような冷たい目を。




右手に持っていたガラスのアストロラーべに、人影が映った。

振り向くと、セイヤンがにこやかに立っていた。
08_交代ですよ 「お、もう交代ですか?」

「ええ、ゆっくりとお休みください。毛布は昼の火事で燻されて煙かったのですが、無いよりはマシでした。翡翠様もお使いになると良いでしょう」

セイヤンは優しく翡翠の肩に手を乗せた。

「へへ、お気遣いどうも。ところで……」


翡翠が、唾を飲み込んで乾いた笑いを浮かべる。



「ヘンゼルも、鏡か何か持ってりゃあ、俺みたいに気付けましたかね。あんたに殺されるって」

「そうかもしれませんね。でも、最後は同じこと」




09_同じこと セイヤンが翡翠の肩を引き寄せ、ナイフを振りかぶる。
捜索隊の用心棒、ヘンゼルを殺害した凶刃が月夜にぬらりと光った。

瞬間、翡翠はアストロラーべを地面に叩きつけ、セイヤンが刺すより疾くガラスの断面で自分の背後を切り払った。

ガラスの刃がセイヤンの右手を捉える。

咄嗟の翡翠による反撃の勢いに負けて、ナイフは手から弾け飛んだ。
しかし、肉を斬った感触はない。袖の中にある何か硬いものとぶつかり、手に持ったガラス片は粉々に砕けてしまった。

体勢を立て直そうとする翡翠。しかしそれを相手は許さない。

背後から首を掴まれ――


10_銀腕
「がぁっ・・・・・!!」

自分の胸から、銀色の腕が生えた。
一瞬遅れて、血飛沫がそれを真っ赤に染める。
セイヤンの背後から、もうもうと排蒸気が立ち込めていた。

「毛布には睡眠薬を染み込ませていました。ナイフにも即効性の毒がね」

セイヤンが“銀腕”を引き抜くと、肺が血で満たされた。挽き潰された心臓から、大量の血が堰を切ったように飛び出した。

「さっさと帰らなかったから、帰る前に気付いてしまったから、……気付いて抵抗するから、貴方はこんなに苦しまなければならなかった」

ごとん、と水晶が地面に落ちた。
後を追うように、翡翠も頭から地面に倒れ込んだ。



11_死亡 「誰にも、英国にも、このダイヤは渡さない」





川辺に、全身血塗れの男が立っていた。

男は川に入り、サファリハットを水に浸し、それで顔を拭った。
揃いのサファリジャケットを脱ぐと、服と自らの浴びた血をざぶざぶと洗い落としはじめる。


赤黒く染まった右腕が雪がれ、正しい色へと戻ってゆく。

男の上腕から先には、銀色の義手が接続されていた。

皮手袋を填めなおす。


川の水はほんの少しだけ赤く濁ったが、絶え間ない流れはすぐに証拠を消し去っていった。


 






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原案・文章(マイケル)
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