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第12話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります




00_ロゴ







ガットリングが空転しながら、こちらに鎌首をもたげている。
赤熱する砲塔と刻まれた金色の経文が高速に融け混ざり、主人の攻撃命令を待つかのように唸りを上げた。


数珠型スターターを指に提げ、主人である虚無僧・鏘園は低い声で告げる。



「みな等しく黄泉へと降った。獣人も、墓荒らしも、女も、狂人も、枝も、真理を嘯く天狗も」



雪柳、ヴァイス、ナタリア、ジェーン、キギ、アダム。

宝玉に目が眩んだ者は皆、島を守る刺客たちによって殺された。
大英帝国の噂話にすがって安易に未来を渇望し、ひとりひとりが足元を掬われた。


「へえそうかい。でもアンタが経をあげたのは一度きりなんだろ」

01_ズサー 相対する捜索隊の用心棒、ヘンゼルはまだ動かない。



「此度で二つ目となるであろう」

「連勝記録なんか作らせねえよ。あんたは1勝1敗で終わりだ」

印を組んでいた虚無僧の右手がトリッガーへと添えられる。
呼応するように、ヘンゼルの唇がわずかに動いて何かを唱えた。
「■■■■■■……!」



鏘園の読経とともに、ガットリングガンが火を噴いた。
「如是我聞、汝等衆生、当信是称讃、不可思議功徳、一切諸仏、所護念経」

6つの銃口からとめどなく放たれる強烈な発砲音が重なり、巨大な金属樽が転がるような音を立てる。


その弾幕をヘンゼルは縄跳びを楽しむかのように飛び越え、あるいは掻い潜った。





02_避け 「そんな重たい丸太で俺に当たると思わないほうがいいぜ」

無論、それは生身の人間に出来る芸当ではない。
ひとたび転経奇環砲が斉射を開始すれば、有効射程1100メートル内は低質のチーズの如く穴だらけだ。
地を這う生物が鏘園の“読経”から逃れるのは容易いことではない。


ファラメルディアス達が生き延びたのは、ヘンゼルの「反転」の号令で即座に藪の深い谷側に逃げ込めたからに他ならない。



奇環砲に真っ向から対するヘンゼルが自身に掛けていたのは加速の魔術。

心筋を加速させ、血流を加速させ、全身の筋収縮を加速させる。

その運動を制御する知覚をも加速させることで、奇環砲が照準を合わせるよりも速く動くことを可能にしていた。



鏘園は念仏を唱えながら全身をねじり、奇環砲を振り回し続けた。

僧に似合わぬ巨躯とその両腕で反動と重さに耐えながらヘンゼルを追う。
それでも砲弾は地面を耕し、木立や蔦を薙ぎ払うだけだった。



そしてヘンゼルを追うその動きが誘導されていることに鏘園は気づいていない。

右へ左へと次第に振り幅が大きくなった機関砲はとうとう持ち主の重心から外れ、鏘園は咄嗟に脚を踏み出さざるを得なかった。

姿勢の維持に気が割かれ、わずかに読経が止まったその瞬間、視界からヘンゼルが消えた。


一瞬の隙を突いて大きく跳躍していたヘンゼルが着地したのは鏘園の背後だった。

03_背後に立つ 相手に振り返るいとまも与えず、天蓋の中にあるであろう後頭部目掛けてロッドが叩き込まれる。

04_背後から殴る 籠を突き抜け、肉を突き抜け、頚椎に至るその衝撃で鏘園の意識は寸断。バランスを立て直すこともできず、脚の折れたワイングラスめいて前のめりに倒れこむ。


しかし、ヘンゼルはノックダウンを許さない。

鏘園が転倒するよりも疾く正面に周りこみ、腰に下げていたブランダバスを抜いた。



「ひとりやっつけるのに何発の弾が要るんだ?」










05_発砲1 「俺なら1発だ」




06_発砲2 ブランダバスから放たれた散弾はしかし、一点を目掛けて収束しホオズキのような軌跡を描いて鏘園の心臓を射抜いた。



絶命により弛緩した筋肉が膝を着かせるよりもなお疾くヘンゼルは加速し、駄目押しの一撃を見舞う。

07_フルスイング 頚椎を砕かれ、心臓を貫かれ、内臓を外側から圧し潰された後に



ようやく鏘園は地面に向き合うことを許された。

08_将園死亡 ジャングルに再び静寂が訪れた。


遺されたヘンゼルは、自身に掛けた大量の加速を解き、ふうと深呼吸する。

「あちゃあ、先にいろいろ訊いておくべきだったなあ」


名残惜しそうに虚無僧の遺骸を揺すった。無論、返事はない。


09_つんつん


大人数を制圧する力こそないが、加速を駆使した単純な暴力は1対1の戦闘において相手を簡単に圧倒することができる。

相手の死角に入ることも、急所に致命的な打撃を与えることも、発射された弾丸を小突いて軌道を変えさせることすらヘンゼルには容易いことだった。

その速さ故に、自分でも手加減がわからない。

ヘンゼルにできることは加速のオンオフを切り替えることのみであって、「尋問できる程度に痛めつける」などという細やかな制御は未習得のままであった。



「しかしまあ……無人島にこれだけの敵がいるってことは、ここにあの議員サマの探してる秘宝があるってのは間違いないな」

ヘンゼルは思考を巡らせる。

10_推理 先遣隊がここに着いたのは2ヶ月前だと聞いている。

ヘンゼルが馴染みの酒場で自主的な用心棒(と称したタカり)として働いていた時に輝石屋である侘助から声をかけられたのが1週間前。

そこからはあっという間で、本隊が揃ったのが最後の港を出る2日前。

計画が遅滞しているようにも、外部に情報が漏れるようなミスを犯しているようにも感じなかった。


なぜ俺たちは待ち構えられて襲われたのか。情報はどこから漏れたのか?
誰かに監視されている?

まだ確定に至る情報はない。ただ今回、ここに倒れている虚無僧の仕掛けた奇襲がまぐれでないとすれば、俺たちはまた襲われるだろう。

先遣隊6人が「それぞれ持ち場にて殺された」ならば、この深い森に潜む刺客はあと5人。
油断してはいられない。

――俺は生きて帰り、金を手にして必ず自立する。家柄でなく、自分自身の力を以って一から成り上がるんだ。



「まいっか。合流してから考えよう」

口をついた呑気な言葉と裏腹に周りを警戒しつつ、ヘンゼルはロッドを担ぎ
退却したザクローゼンたちを追った。



11_先へ進む









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原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ
しめ鯖

第11話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります





00_ロゴ






01_背後 狂乱のオカルティスト、アダムはマハトマに導かれるまま森を彷徨っていた。

薬草が詰まった嘴の内側をしとどに濡らしながらも、決してマスクを顔から外すことはない。
アダムはこの島を取り巻く外気そのものを害のある毒と判断しているからだ。

この島の気候は異常だ。数時間前まで凍てつくような雪原にいたかと思えば、急に気温が上がりはじめて、いまや全身がべとべとに汗をかくほどの暑さに変わっている。


「早々に宝玉を見つけ退散しなければ、暗黒の狂気に呑み込まれてしまうぞ……」

しかし、現実はアダムに厳しかった。

狂乱には狂乱が引かれ合う。
往く手に立ちふさがったのは虚無僧・鏘園だった。

02_遭遇 「我は鏘園。汝の業を断つ暗明の虚無僧なり」

半身でガットリングを構えたまま抑揚なく名乗る。


「業(カルマ)……? ハッ、そんな低俗な志でこの私がここまで来たと思うか! 野良坊主ごときが止められると思うなら止めてみよ!」


「無論」

アダムの挑発に、素顔を隠した天蓋の中から低い声で応じる。
鏘園は勢いよく数珠型リコイルスタータを引いた。





03_腰溜め撃ち 「真理の光!!」

ガットリングが火を噴くより幾ばくか速くアダムが杖を突き立てた。
瞬間、杖の先が眩く発光し鏘園の視界は真っ白に遮られた。

網膜に焼き付いた白いモヤの中に現れるいくつものペストマスク。


04_幻惑 鏘園が銃口を幻覚に合わせようと逡巡した一瞬の隙をついて、アダムは素早く森の深い方へ逃げ込んだ。










05_ぜえはあ 数分か、それ以上か。
足がもつれ、木に倒れこむように縋って、逃走は終了した。

「こ……ここまで、来れば……」


思わぬ全力疾走にじらじらと視界が揺らぐ。
肩で息をしながらアダムは状況を整理していた。

堂々と啖呵を切ったは良いが、正面衝突して勝てる相手ではなかった。

ヴァイスやナタリアとは意識的にコミュニケーションを取らなかったが、今考えれば集団で行動しても良かった。
何かあれば身代わりにも出来ただろう。


しかし、あれだけの火力を持った兵が守護しているとあれば宝玉も近いはずだ。
大英帝国のコヒヌール。この島にあるのは間違いない。

呼吸を整えて、もう一走り行けるだろうか。
上陸地点への帰還ルートも考えれば、まだまだ油断はできない。




「茶番は終わりか?」

06_背後2




「う、うわああ!」




07_背後2気づき 虚無僧が、さもいままでそこに居たかのように平然と、アダムの背後に立っていた。


「わずかな蒸気圧を検知。異教の徒よ、そんなペテンではこの鏘園は騙せんよ」

「この、狂乱のアダムに銃を向けるとは! 真理に焼かれて消し炭になる前に立ち去るがいい!」

「狂乱? 真理? 汝よ、自分で言っていて恥ずかしくないのか。稚戯を振り回しても、まことの真理にはたどり着けぬ」


こけおどしは一切通じない。 右手に数珠を絡めたまま、鏘園は一歩、また一歩とにじり寄る。
アダムは気圧されながら距離を取ろうと後退したが、地面を這うツタに足を取られ転倒してしまった。


08_倒れ 「し、真理の光!」

杖を振りかざし叫ぶが、しかし何も起こらない。

「おおかた、使い捨てのフラッシュバルブであろう?もう発光は出来まいて。」




鏘園が再び数珠を引く。遮るものもなく、すべての弾がアダムの全身を砕いた。




「偽りの狂人よ。汝の信じる死後の世界では、嘘吐きはどう裁かれるのであろうな」


09_南無三 「まあ、『狂人のふりをすればすなわち狂人』か」

鏘園は亡骸に相対し、片手で念仏を唱えた。









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第10話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります



00_嗜虐

「グゥ・・・・・ウゥ・・・・」
雪と熱帯植物が同居する奇妙なジャングルで、崩れた塀に身を潜めている人影がひとり。














01_damage.jpg
雪柳である。





















01-2_逡巡
01-3_脱兎 ヴァルターとの戦いで辛くも逃げおおせた雪柳であったが、この物陰に身を寄せてからは一歩も動けずにいた。

体を縛り付けるものは何なのか。

斬り結んだ時出来た傷は大したものではない。組み敷かれ、剣を突きつけら命を脅かされた恐怖でもない。



それは、一言で表せば悪寒だった。
全身の寒気と倦怠感、吐き気そして目眩が雪柳を蝕んでいた。


息の続く限り走り続けたのだから当然身体は疲弊する。しかし、その疲れが一向に癒えない。

そして雪柳は立つことも困難になり、体を縮こまらせ震えながら、やがて気絶した。






どれだけの時間が経っただろうか。雪柳の意識を現実世界から引き揚げたのは、男の声だった。

02_マッド 「お前は国(アメリカ)を愛しているか?」


張り出した木の枝に腰を降ろし、男がこちらを見下ろしていた。



星条のスカーフ、赤と紺の外套。

ウエスタンハットに、安物のゴーグル。

腰に巻いたむき出しのダイナマイト。




「お前は・・・・・・! “マッド”!」



雪柳は、男を知っていた。




マッドと呼ばれたその男は、口の端をいびつに持ち上げた。



「おお、俺を知ってたか」

アメリカに住む外国人労働者でその名を知らぬ者はいない。



マッド。本名アルマッド・ハミルトン。
元塗装工の脱獄囚である。

逮捕時には23州を放浪し暴行・殺人を行ったとされている。









「俺も、そのミリティア・ガントレットを知ってるぜぇ。 お前、サンフランシスコの獣人だろ」
「……ッ!!」







雪柳がたじろぐ。

自分が、被食者であるからだ。

愛国者・クリスチャンを自称するマッドが手をかける対象は、いずれも貧しい外国人や亜人であった。

マッドはその姿から”血染めの星条旗”と報道され、ごく一部の人間から熱狂的な支持を受けていた。





「お前ら獣人は黄金に目が眩んだケダモノだ」







雪柳が生まれた獣人街、その発祥はカリフォルニア・ゴールドラッシュに沸いたサンフランシスコの外国人労働者集団である。






行き過ぎた愛国心はそのまま排外主義として、



「お前ら獣人は国を堕落させ、街を汚すケダモノだ」



快楽殺人の大義名分となる。








03_投擲 「オラァ!」


マッドが腰のダイナマイトを引き抜き、側薬付きのベルトに当て擦る。

火花を散らした爆薬筒が、雪柳に向かって放たれた。










ダイナマイトは雪柳の数メートル手前の地面に落とされ、ほぼ同時に炸裂。
激しい火柱が起こり、爆風の作り出した土煙が辺りを灰色に染めた。




04_爆発 「グッ……アアッ!!」

もうもうと立ち込める土煙が晴れ、中にのたうち回る雪柳の姿があった。
爆風を諸に受けた小石が脇腹を抉り、枝が右腕を貫いていた。












05_愉悦 「ひゃははははああははははは! それが! 報いだ! アメリカを穴だらけにしたお前らを! 今度は俺が穴だらけにしてやった!」


マッドは木の上から動かない。
ガントレットは届かず、安全地帯からの一方的ないたぶりが続けられた。








わざと直撃させない距離での爆撃。
破片が雪柳を苛み、爆風が肌を焼いた。


土埃と血油にまみれて呻く声は次の爆発にかき消される。



殺人鬼は、ゆっくりとダイナマイトを投げ続けた。

酒場でひとりダーツを投げるかのように、静かな川面に小石を落とすかのように。




さらに幾度めかの爆発の後、マッドが不意に投擲を止めた。

アンニュイな表情でベストからスキットルを取り出して、一口あおる。

バーボンを飲み下すと、遠くを見ながらひとりごちた。



「『今日がお前の命日だ』…ってセリフあるよな。西部劇で悪役が言うようなヤツさ」



雪柳は逃げようとしていた。弾切れか、休憩か、飽きたのか。
わからないが、攻撃の手が止まったのだ。
しかし破片で切り刻まれた体で這いずろうとも、マッドは気にする様子もない。








06_瀕死 「意外に優しい言葉だよな?」

状況が変わるとはとても思えない。だがそれでも必死の抵抗を見せる雪柳に、まるで世間話をするかのように落ち着いた声で語りかける。



「俺はお前にそんな事は言わねぇ。誰にも知られずここで怯えて死ね」


マッドは大きく振りかぶって、ダイナマイトを投擲した。









07_投擲2 それははじめて雪柳の背中で爆ぜた。















08_とどめ 一際大きな火柱。地面がまくれ上がり、粉塵となって炎と共に吹き飛んだ。


爆煙を背にマッドは、やっと腰を上げる。


ひとしきり漕いだブランコから他の遊具へと移るように
少し寂しげに木から飛び降りると、あの歌を口ずさんだ。


"Oh, say can you see,
by the dawn's early light......."


赤と紺のマントを翻し、血染めの星条旗は林の奥へ消えていった。




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原案・文章(マイケル)
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第9話

本記事は1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります


私は、あの国を許さない。


私は、先祖を許さない。


私は、家族を許さない。




許せるものが無くなって、私は、独りで生きていくことにした。


水と日光さえあれば何週間も生きていけるこの体で、生まれ育った森を抜け、コンスタンティノポリスから更に西に。

列車と貨物船にまぎれ、イギリスへと逃れる遥かな旅路。


日雇いのわずかな路銀で、2年かけてたどり着いた。


それでも、私を苛むこの左手を治す医者は



00_キギ


イギリスにも居なかった。









01_ロゴ









キギはタフタである。




タフタとはオスマン帝国の攻略によってコンスタンティノポリスから内陸のさらに奥の森へ追いやられた一族を指す。

タフタの一族は絹織物作りに長け、様式化された花文様と幾何学模様は世界中で重宝されていた。








進軍に追われ森に身をやつしたタフタ達は、今度は麻や綿で布を織った。
彼らの織る青や緑は自然への敬意と畏怖の表れによるものである。

過酷な自然に順応しようとする彼らに、今度は森自身が牙をむいた。


風土病の蔓延である。


罹患すると体温が下がり、食物を受け付けなくなる。
四肢の筋肉は硬直し、肌は朽ちて次第に苔と蔦が絡まるようになる。

肌の樹皮化は加速度的に全身へ進行し、やがて意識を喪失する。

しかし心臓が停止しようとも、遺体は腐らない。

タフタの一族はこれを「森への回帰」と考え、
              ・・・
全身が硬直した遺体をその地へ植えた。


キギはその儀式から抜け出したタフタであった。



02_捜索



林を抜け、坑道を避けて川を渡り、島の中央部へ。


キギは先へ進むことを拒むような雨林のうねりを造作無く越えていった。


島の大地を薄く覆っていた雪はある地点から急に無くなっており、にわかに気温が上がり始めている。

それまで島のあちこちで散見されていた集落のような廃墟はもう見当たらない。


代わりに石造りの小さな祠が、まばらに見られるようになった。

それらの正面と思われる側は一様に島の中心部を向いている。


英国女王の宝玉がなぜこの島にあるのかは不明だが
この島に何かが奉られているとすれば、それは間違いなく進行方向の先にある。
キギの予想は、半ば確信めいたものだった。

祠の間隔が短くなり、道はどんどんと険しくなってゆく。


そして、幾度目かの断崖を登った先に。



03_発見

「見つけ……た……!」



キギは島の最奥へとたどり着いたことを理解した。


島に点在する無数の道標である祠が同心円状に向き直る高台。

その中心にひときわ大きな祠があった。ここが島の中央である。


キギは辺りを確認する。ヴァイスもナタリアもまだここへは来ていないようだ。




しかし気付くことができない。ヴァイスもナタリアも殺された真実に。





04_忍び寄る影




その魔の手が自らにも及ぶという必然に。




05_忍び寄る影2



「木人が一番乗りとは、皮肉なものだな。おい」







06_おい


背後からキギの肩を無造作に掴まれた。


「誰」「近づかれ過ぎた」「どうやって」「知らない声」「敵か仲間か」「武器は」「怪我したか」「足音は無かった」

散発的な思考が明滅し、結論も出ぬ間に飛びずさった。



しかしキギは見る。相手の姿を。

大きなターバン、腰に提げたヤタガン。三日月の首飾り。「木人」。

瞬間、全ての論理的思考が消し飛び


目の前の男が殺すべき対象に変わった。








07_威嚇  

「イェニチェリイイイイイィィィィィィィィ!!!」



構えた大鎌を横薙ぎに振り抜く。

しかし目の前の男は、まるで強風に煽られた新聞紙をはたき落とすかのように軽々と踏みつけた。



「ハッハ、親父の仕事で呼ばれても困る。俺にもナルギレって名があるんでな」

08_振り向き


ナルギレと名乗ったその男は、キギに警告する。

09_武器止められ 「おっと抜こうなんて思うなよ。お前はもう俺の間合いの中だ」

ナルギレが半身で相対した後ろ側、左手は既にヤタガンの柄に添えられていた。


大鎌を抜けば切られる。後ろに逃げれば武器を見捨てる上に、崖に阻まれる。実質退路はない。


だが、キギの思考は目の前の男への怒りのみがあった。

「お前たちは!200年前にタフタを森へ追いやった!私たちを森の毒に塗れさせたこの屈辱を! 私は! 私は決して!」

相手を声で破壊しようとさえ思えるほどの衝動が、怒号としてナルギレにぶつけられる。

「私は決して許さない! この体を! あの森を!! 逃げたタフタを! 貴様達イェニチェリをォォォォ!!!!」



ナルギレは意にも介さない。

「そう熱くなるな。”反応”が進むぞ」


先祖と自分の汚辱を、ここで刺し違えても雪ぐ。


キギは大鎌を引き抜いた。

しかし、振りかぶろうとした体は大きくバランスを崩し、キギは地面に倒れこんだ。

体に力が入らない。全身の血の気が引ききったような眩暈に襲われ、立ち上がることすらできない。


「グッ……ウゥ……ッ!!」



10_樹木化
・・・・・・・左手が動かない。否、衝いた左手が地面に根を張っていた。

五指は根となり腕の蔦は肩まで絡みつき、樹皮からは新たな葉が芽吹いていく。

ナルギレがゆっくりとキギに近づいた。


11_伐採 「舐めるなよ? 俺がお前を殺すつもりなら、声などかけずにそのまま首を刈っていた」

重力に逆らえずしなだれたキギの頭を髪ごと掴み、首に刃を突きつけるナルギレ。


「どの道お前はもう長く生きられない。ここはあの森の何千倍もの瘴気があるからな」


「……瘴気……?」

息をするのもやっとの声で、キギが言葉を返す。



「お前らが患っているのは森の毒でも風土病でもない。瘴気なんだよ」



その言葉を受け止めることもできないまま、キギの意識が混濁していく。

全身の硬直が始まった。



「オイ、死ぬな! 最期に聞きたいことがあるんだ! あの男に会ったんだよな!? あの男は――」


ゆっくりとキギの目が閉じられていく。生を諦めた者の重みがナルギレに伝わる。



堰を切ったようにキギの服や髪の隙間から無数の蔦が生え、掴まるものを求めるように伸長する。


ナルギレは掴んでいた腕を取られそうになり、慌ててキギの遺体を手放した。


「っ畜生!!」

11_キギ負け

遺体は、まるで木陰にもたれるかのように打ち棄てられた。肌の樹皮が首から全身へと広がってゆく。
身に着けていた服にはたちまち緑の苔がむし、灰のように朽ちていった。




ナルギレはそれを横目で見送ってしばし何かを逡巡したのち、かつてキギだったものに大鎌を立てかけてやった。





鎌の柄を抱きしめるように蔦がゆっくりと絡みつき、成長はそこで止まった。


12_死






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第8話


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00_ロゴ




―本隊上陸 2ヶ月前―





男のような声が、聞こえる。

「なあジェーン、今日はお前を殺した奴を探しに来たんだ。少し落ち着いたらどうだ?」


女のような声が、それに応える。

「いやだわジェーン、どんなときも喜びを忘れないのが私よ」


カップルのような声が、生気を失い静まり返る廃墟にこだまする。

「見てジェーン。素敵な廃墟に力強い緑と綺麗な白い雪のコントラスト。フフフ、あなたのピアノで踊りたくなっちゃう」


「こんなところで足を滑らせてもみろ。次は雪を殺さなくちゃならなくなる」


「いつもあなたは心配性ね。ほら、捕まえてごらんなさい」

声は、ふたつ。

姿は、ひとつ。






01_kk.jpg
細かなビジューが施された純白のドレス。

そのAラインが収束する腰には擲弾と、小型のガラス筒と、抑圧されたコルセット。

細くやわらかいブロンドの隙間からは、ゴーグルに革で歪に接がれたマスクが見える。

優しげなレースで編まれたな日傘の柄には、マスケット銃の台尻。


アンバランスの極致を体現したような存在が、ジャングルの中ひとり、くるくると踊っている。




常夏に降る雪。朽ち果てた部族の痕跡。怪しく匂う、まだ見ぬ宝玉。
その匂いを嗅ぎつけた招かれざる客たちにより、安寧はみだされてゆく。

もはやこの島に普通は存在せず、常識は通用せず、静寂は意味を成さない。



02_狂った踊り ただし、異常で非常識な騒々しい客人には、それ相応のもてなしが待っている。

「あー、そこの女? 止まるネ」

ジェーンを呼び止める声。

新たな声の主もまた、女であった。



03_ユーホァ 黒いドレス、黒いまとめ髪に黒いマスク。
黒尽くめに映える吉祥の結び飾り。
子供の頭よりも大きな錘には金色の龍があしらわれている。


中華の女人、清の暗殺者。名をユーホァと言う。




04_立ち話 「あら? あなたみたいな人、あの船にいたかしら?」

「船? 知らない。 ワタシここではじめまして。アナタ、宝玉を盗みに来たひとり? そうは見えないケド」

ユーホァがジェーンの服に視線をやる。
ジャングルにも廃墟にも溶け込めない、その真っ白なウェディングドレスである。

その格好で何かを盗み出すのであれば、あまりにも目立ちすぎる。


「まあ! ナタリアの言ってたことは本当だったのね! とっても素敵! 皆もきっと喜ぶわ!」


屈託無く喜ぶジェーン。英国女王の宝玉を奪う気概は感じられない。

ユーホァは呆れたように双錘をくるくると回す。

「ホントは背後からアナタ殺すつもりだたケド。どう見てもそれ宝探しする格好ジャナイ。宝玉取るつもりないナラ見逃してあげる」




05_挑発 「ホラ、さっさと島から出ていくネ」

指令があろうとも、無駄な殺しはしない。今日上陸した者たちの元々の目的は島の地質調査だと聞いている。
調査も探検も不向きな目の前の異物は放っておいても何もできないだろう、と言う判断だ。


しかし、ユーホァの容赦をジェーンは違う形で捕らえていた。




「ころす? わたしを? ねえジェーン、この人、わたしを『ころす』って 」

「殺す? お前を? こいつがお前を殺すのか?」

「ええ、そう、わたしをころすって」


しとやかなジェスチャーをしていたジェーンの指が、わなわなと震え、硬く握り締められる。

その拳に籠められた意味は、明らかな敵意。

愛するものを、私(ジェーン)自身に害なすものを徹底的に排除する殺意だった。

腰に提げたガラス筒の先端をマスクに挿入する。側面には「OPIUM」の文字。

マスク内に供給された蒸気を一身に吸うと、ジェーンの視界はヂリヂリと明滅した。

急速に持ち上がる吐き気のような怒りが、喉から煙と共に噴き出した。





06_怒り心頭 「殺させない! お前をもう二度と! ジェーン(わ た し)をもう二度と!!!」


フルフェイスのマスクから顎がはみ出るほどの怒号と共に、ジェーンがドレスの裾を割り開く。

煌びやかな絹の合わせ目から無骨なクリノリンが展開し、鎌首をもたげる蛇のように二丁の機関銃が顔を出した。


「それがアンタの正体。面白いネ」

「ウオオオオオオオオオ! コロス! コロスモノハコロスゥゥゥゥ!」

「でも……阿片の強烈な匂い、それだけは許さナイ」


07_乱射 日傘をライフルめいて持ち替えたジェーンが、髪を振り乱しながら突進する。

一斉掃射。3つのマズルフラッシュがユーホァに向けて放たれる。



だが、ユーホァは既にそこには居ない。

最初の弾丸が空を斬り、地面を叩く前にユーホァはジェーンの真横にまで迫っていた。
あたかも神仙伝が如く地を縮めるように懐まで滑空したユーホァは、すれ違いざまにジェーンに双錘を叩きつける。
後頭部と腰椎へ互い違いに鉄球がめり込み、限界を超え砕かれる。



最終的にジェーンの体は、振り回された人形のように軽々と宙を舞い、


08_無双乱舞


ユーホァの後ろに落ちた。











09_死体 破壊されたジェーンの頭部からマスクが剥がれ落ち、無精髭が覗いている。
マスクに刺さったガラス筒の"OPIUM"とは、阿片である。


英国はインドで栽培し製造した阿片を清に密輸し、組織的に販売して収益を得ていた。
阿片を禁じていた清との間で戦争となったが、勝利した英国は清に耐え難い不平等条約を結んだ形で終結させた。



「アンタが死んだ女をいつまでも想うは勝手。ダケド、牙向く相手、間違えたようネ」



阿片の効用は使用者に抗えぬ恍惚をもたらすが、常用はやがて精神錯乱を伴う。










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原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ
しめ鯖