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第23話

本記事は2018年1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります






 
00_ロゴ
ダイヤ捜索隊、ミーナの首元にナイフを突きつけ、じりじりと下がるセイヤン。

隙を伺い、詰め寄るナルギレとヴァルター、そして通信士のモルゲンロート。


しかし、追い詰めているわけではない。

状況を打開できないまま、一定の距離を近寄れずにいるだけだ。


01_追い詰めたぞ そして5人は、セイヤンの導くまま、広場へとたどり着く。




広場の中央には、それまでの遺跡やジャングルでは見られなかった、鉄と樹脂で作られた無気味な構造物が置かれていた。

それは、寂れたシェルターのようにも、朽ちた巨鳥の卵のようにも見えた。




02_シェルター そしてその上に、小さな子供。

静かに体を横たえたまま、眠っているように見える。

息をしている気配はない。




03_寝ている セイヤンはミーナを拘束していた腕を解き、モルゲンロートに向かって突き飛ばした。


「きゃっ!」

「だ、大丈夫ですか?」



04_大丈夫か 介抱するモルゲンロートを庇う位置に立ちながら、ナルギレはセイヤンに詰め寄った。


「抵抗は諦めたのか? ならば大人しくクーへヌールを渡せ!」



セイヤンは腰に提げた小箱を開いた。

取り出されたのは、ブリリアントカットに青く煌くダイヤモンド。




05_自慢 それは紛れもなく、英国を照らし西洋諸国を統べる象徴。

子供が玩具を自慢するかのように掌で弄んでいたセイヤンが、にわかに激昂した。


「誰が貴様らに渡すものか!」



06_誰が渡すか 「英国から総てを奪われたムガルの民の心が分かるか!」


「……!!」


全員が口を噤んだ。

1858年、インド諸侯の相互の争いに積極的に介入し最終的に全ての戦争に勝利した英国は、軍事力で圧倒したまま総督を据え、英国領として独占的にインドを“買い取った”。

一時は大陸全土に版図を広げる勢いだったムガルの滅亡は誰もが知るところだった。


「セイヤンさん……。あなたはムガル帝国の人だったんですね」

ミーナが口を開く。



「そうとも。私は東インド会社のスィパーヒー(傭兵)にして、ムガル反乱政府の暗殺部隊長、セイヤン。セイヤン・ハーンだ」



セイヤンの真の名に、瞠目するナルギレ。


「ハーン……!? お前、まさかバフト・ハーンの一族か!?」

「バフトハーン……?」


事情の飲み込めないモルゲンロートにヴァルターがフォローを入れる。

「バフト・ハーン……インドで起こった大反乱、セポイの乱の首謀者、反乱政府の総大将だ」


「紹介ご苦労。いかにも。このダイヤはインド大反乱の折、女王暗殺のため英国に渡った際に奪い取ってきたのだ。ガラス玉とすげ替えてな」


「ダイヤは奪えたが、暗殺も反乱も……失敗に終わった。皇帝は流刑され、あの女王は今も私たちの美しいモスクや廟堂を破壊し、金糸の織物を売り捌き、民が餓えに喘ぎながら育てた紅茶を飲んでいる」




07_ドヤア セイヤンはクーへヌールを握りしめ、高々と拳を挙げた。

それは個人の怒りでなく、滅ぼされた亡国の慟哭そのもの。


「ならば! ならばひとつくらい返してもらおう!! ああ! 誇り高きパンジャーブの大地から産まれた光の山、クーヘヌールを!!」

幾人もの命を落としてもファラメルディアスが追い求めた捜索対象。

人質を開放し、刃を突きつけられながら、それを捜索隊の前に見せつけてなおセイヤンは動じない。

むしろ、王手を掛けたのが自分であるかのように笑っている。




08_どうする気だ 「それをどうする気だ!!」


「嘆かわしい! 救いようのない無知どもめ! このダイヤが放つ“光の山” が老いさらばえた女王が持つべき物ではない証を見せてやる!」

朝日に照らされたダイヤが一際に青く輝く。


その明滅に呼応するかのように、寝かされた少女の胸元にあるネックレスのような意匠が動き出す。



セイヤンは少女に向き直ると、ダイヤをそっと胸元に置いた。

ネックレスの爪が持ち上がり、静かに掴んで、ダイヤはあるべき場所に収まった。


09_装着 ヴィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ…………



駆動音が辺りに響き渡ると、白磁のような肌にうっすらと紅が差され、少女はゆっくりと体を持ち上げた。


「自動人形(オートマタ)……?」


ミーナがひとりごちた。


10_むくり 生気の感じない口元と、半分を鉄機のゴーグルに覆われ、眼差しの分からない顔は沈黙をたたえたまま。

丁重に飾られた人形のように、静かに正面を向いていた。

しかし、歯車じかけのオートマタとは一線を画す、滑らかで無駄のない動きだった。



「は、よく躾けられた子供だな。そんな玩具を動かすために女王からダイヤを奪ったのか?」




「いやナルギレ、違う。核電金剛石の本当の力は……!」


11_違う 「流石ヴァルター……いや当然か。探し物の本当の意味ぐらい知っているよな!」


「その通り、この人形はダイヤに動かされている。そしてこの島の地殻には大量のニッケルの同位体が含まれている! そのニッケルが出す瘴気を電荷として蓄えているのがこのクーへヌールという訳だ」



「島の瘴気を存分に溜め込んだクーヘヌールを動力源とするこの小さな体には今、9000億ジュールに相当するエネルギーが溜まっている」


「……9000億!?」


9000億ジュール。

この産業革命時代にあってまだ実用段階にない最新の爆薬、トリニトロトルエン200トン分だ。


この島を10回灰塵に帰してなお余る熱量が、小さな少女の胸元に蓄えられている。


「それこそが英国女王の笏に収まるような飾り物ではない、クーヘヌールの真価なのだよ。大掛かりな石炭と蒸気の時代は終わりだ!! 我々はこの島から無限のエネルギーを得て、世界を支配する!!」


少女は産業革命を起こした蒸気機関を優に越える技術特異点であり、破壊兵器であった。
そして英国の秘宝、クーヘヌールはそのエンジンとして盗まれたのだった。


「電気人形、汝の名は”バイラビ”! それはあらゆる望みを叶える女神! さあ! ムガルを滅ぼした全ての敵を! 英国を! 世界を悉く焼き尽くすのだ!!」


12_第3部完 「認証」



少女が



小さくつぶやいて



ゆっくりと



左手を挙げる。




13_発射
掌がダイヤの発する、同じ青に色づいた瞬間。




影すら包み込む眩い光が爆発し、全員の視界が奪われる。

網膜を焼き切らんばかりの光の中で感じられたのは、落雷のような轟音と爆風。




反射的に目を背けた4人が再び顔を上げると、そこには変わらずセイヤンが立っていた。



だが



セイヤンの胴体、その中央に大きな空間があった。

14_大穴 丸く切り取られたかのように人体のそこにあるべきあらゆる筋肉、臓器、骨が無い。


「……ぁ?」



断末魔をあげる暇も与えられず、糸の切れた人形の如く崩れ落ちる。


バイラビと呼ばれた機械人形の左手からは未だバチバチと電気が迸り、放熱と思われる陽炎が立ち昇っていた。


バイラヴィー。

それはインド神話に登場する十大女神マハーヴィディヤーの一柱。
輝く広大な知識を持つ者と崇められる女神の中でも、破壊と創造を司る。

創造のために手段を選ばない破壊を起こす、無慈悲な女神である。



「ヒィッ……!!」


何が起こったかを認識したモルゲンロートが口元を押さえる。


バイラビがその声に4人の方を向く。

たった今存在を認識したかのようにゆっくりとした動作で、再び左手を持ち上げた。




「荷電再開」



15_逃げろ 「まずいぞ!! 退け!!」





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原案・文章(マイケル)
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カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
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シュウ

第22話

本記事は2018年1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります


00_ロゴ~モルゲンロートの手記~

夜中に目が覚めてしまった。

ザクローゼンさんが死んでしまった。

そして、私も人…人とは呼べないかもしれないけど、血の通った相手を撃ち殺してしまった。

血を噴き出し、苦しんで、死んでしまった。
でもその時は怖くて、精一杯だった分、いくらか冷静だった。

我に帰ったのは、蛇や鳥が一斉に何かから逃げていくのを見た時。

理由はすぐに分かった。

森の向こうから、何かが燃える臭いがしてきていたから。

銃撃戦の火薬の残り香にしては長いと思っていたのだけど、動物たちが逃げてきた方向から
匂いが強まっていることで、それが火事だと気付いた。

ここまで燃え広がる前に港のほうに逃げようと立ち上がった矢先、大粒の雨が降ってきた。

短い時間だったけど、スコールは森の向こうの火事も匂いも洗い去ったようだった。


私はキャンプ場の無事が気になって、走って戻った。

キャンプ場の調理場で、人が死んでいた。

一番激しく燃えて、何もかもがボロボロに焼け焦げていたのが調理場だった。


ラバナーヌさんだった。

そこで私はやっと泣いた。悲しくて、心が痛くて、感情の置き場をどこにやれば分からなくなって、ただただ泣いた。

私がザクローゼンさんを呼んで離れてなかったら、襲われずに済んだんじゃないか。ラバナーヌさんを1人にさせたから、火事になったんじゃないか。
私のせいなのかもしれない。私が・・・・




手記はここで途切れる。モルゲンロートが筆を止めたためだ。





彼女はそれまで寝転がっていた体を起こした。どこかから、短くとも壮絶な叫び声を聞いたからだ。

絶叫の聞こえた方は、暗く深い闇の中だった。


涙をいっぱいに溜めた目を擦ると、ゴーグルを掛けた。

モルゲンロートのゴーグルは暗視性能を持っている。工業製品の廃棄場近くに暮らしていた彼女は、朝な夕な廃棄場からジャンク品を拾っては修理・改造し、生活の糧としてきた。

ゴーグルもまた、捨てられた軍用品を直したものだ。



息を殺し、声を聞いた方角に向けて、赤外線を照射した。

クリック音を出すことすら躊躇いながら、感度を上げていく。


おぼろげに映し出されたのは、2人の人間のシルエット。重なりあってよくわからなかったものが、片方が倒れ込んだことで、はっきりと知覚された。


地面にくずおれた痩せぎすの男と、ハットを被った小太りの男。


見違うはずもない。ゴーグルに映し出されたのは、セイヤンが翡翠を殺したその瞬間だった。


全てを知ったモルゲンロートは縮こまり、ただただ夜が過ぎるのを待った。




永遠のような長い時間を恐怖に包まれながらもだんだんと空は白け、何事もなかったかのように朝は来る。




01_帰りましょう 「モルゲンロート様、ミーナ様、おはようございます。少しでもお休みになられましたでしょうか」

「ええよく眠れました。昨日の暗殺者襲撃でひたすら走ったためだと思います。夜警にご協力できず申し訳ありません」

ミーナが早口で謝罪した。

「とんでもない! 現地コーディネータとして皆様の安全のために努めるのも、ザクローゼン様から承っている私の仕事ですから。翡翠様の協力もあって私も寝ることができましたしね」

セイヤンは努めて明るく答えた。


「そういえば翡翠さんはどちらに」

モルゲンロートは俯き身を竦めていたが、翡翠の名を聞いてさらに体を強張らせた。

「そのことなのですが……おふたりにひとつご報告があります。皆様が上陸された際に使われたボートが流されてしまっていたようです」

「しかしご安心を。私がここに来るために使ったボートがもう一艘ございます」


モルゲンロートは小さく震えている。


「元々荷物を載せてやっとの小さな舟のため4人が乗るのは難しいと判断し、先ほど翡翠様をお連れして最寄の港までお送りして戻ってきたところなのです」


全てが嘘だった。

「次はおふたりがお乗りいただき、港に着いたら誰かに船を届けるよう依頼いただけますか? 私はそれをお待ちして最後に皆様の荷物と移動いたします」

小舟には細工がされているのだろう。

途中でエンジンが止まり漂流するか、沈むか。
どの道、自分たちを見逃すはずがない。


そう確信したモルゲンロートは堰を切ったように泣き崩れてしまった。

困惑するミーナ。セイヤンは突然の涙に面食らいながらも、これ以上のパニックを避けようと事態を進めようとする。


「ささ、こんな恐ろしい島とはおさらばです。船着場に参りましょう」

「いやぁっ!!」

怯え切ったモルゲンロートには恐怖でしかない。

セイヤンが腕を取ろうとした瞬間、突き飛ばされてしまう。

「このっ……!」

平静を装っていたセイヤンも、明らかな拒否反応に顔を歪めた。

一触即発。



すると突然、どこかから声がした。


「生まれた国、育った家、残した言葉、この仕事……。何もかも中途半端で、何が正しいかわからなかった」


茂みの向こうから、マスクの男が姿を現した。


02_そこまでだ 「だが目の前にある女の涙を見過ごせるほど俺は非情じゃない。俺は、俺がいま何をしたいかは判ったよ。俺は、自分の力でダイヤを手に入れる」


捜索隊暗殺チームの1人、イェニチェリの末裔ナルギレが立っていた。

迷わずスラリと腰のヤタガンを抜く。


その鋒は、ダイヤ捜索隊の2人にではなくセイヤンに向けられた。



セイヤンがナルギレの方に向き直り、呆れた表情で嗜める。


03_裏切り 「ハハハ! 誰かと思えばナルギレ、お前か。ボヤ騒ぎは徒労に終わったぞ。ほら、誰も死んじゃいない」


「そりゃあ良かった。これ以上ここで殺しはしたくない。できればお前もだ」


パニック状態のモルゲンロート、剣を構える暗殺者と思われる男、男と知った仲のセイヤン。


異常な光景とそこから導き出される必然的な結論に、ミーナが思わず口をつく。

「セイヤンさんあなたは……」




04_動くな 「大人しくしてろ!! 」

セイヤンがミーナを羽交い締め、ナイフを首に突き立てる。


「お前ら動くな! 用心棒も依頼人も殺して、俺1人で最後の2人を始末する……そう思って追い詰めてたのによぉ! お前のセンチメンタルで総てがパァだ!!」



「残念だが、追い詰められているのはお前の方だセイヤン」


物陰からもう1人男が現れる。



05_加勢 プロイツ帝国軍人、ヴァルター・フォン・クロンベルクである。

ヴァルターは捜索隊を暗殺するため、セイヤンが組織したチームの1人だった。
2ヶ月前に上陸した先遣隊の雪柳との交戦後、消息を絶っていた。



「核電金剛石・バーグリヒト奪取のため拘束させてもらう。大人しく投降するなら捕虜の保護は陸戦協定に則ってやろう」


バーグリヒトとは、クーへヌールが持つ「山の光」という意味の帝国語である。

捜索隊の依頼人であるザクローゼンと同様にダイヤの存在を嗅ぎつけた帝国からの命を受け、クーへヌールを奪取するために遣わされたスパイであった。

悪辣なセイヤンの命に従うように見せながらも、刺客たちが先遣隊を殺害した後、身を隠していたのだった。




06_ゲッヘッヘ セイヤンが醜悪な笑みを浮かべる。その顔に、部下が寝返った驚きは無い。

「ヴァルター、どこに隠れていたかと思えば……やはり犬に帝国は裏切れないか!!」


ヴァルターがロングソードを最上段に構える。

重く長い鋼の塊がセイヤンを威圧するが、ミーナの喉元に突き付けられた刃は下がらない。


「おっと動くなよ! お前ら甘ちゃん共の性格はよく知ってる。この小娘の命が惜しければ下手な真似はしないことだ」




08_動くなよ 構えこそ解かないものの、ヴァルターもナルギレも膠着を脱することができなかった。

捜索隊が瓦解した今、ミーナを死なせる理由がない。
義を重んじる軍人と情に厚い男2人にとっては、個人の信条が邪魔をする。

「さあ、見たくばそのままついてこい。クーヘヌール、その本当の使い途を教えてやる!!」


セイヤンが叫んだ。








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第21話

本記事は2018年1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります



00_ロゴ 英国女王から秘密裏に奪われた幻のダイヤモンド、クーへヌール。
その奪還を狙う捜索隊を燻り出そうと企てられた火災は、一陣のスコールにより消し止められた。


捜索隊を挟撃すべく森の出口で待ち構えていた爆弾魔、マッドを返り討ちにした翡翠とミーナは、野営地へと急いだ。


そこで見つけたのは、ラバナーヌと思われる焼死体。
その横で泣きじゃくるモルゲンロートと、彼女をどうすることもできずにおろおろと立ち尽くしていたセイヤンの姿であった。


半ばパニック状態のモルゲンロートを翡翠がゆっくりとなだめる。


ぽつりぽつりと彼女の口から零れたのは、彼女が心神喪失するに余りある悲惨な事実だった。


モルゲンロートの通信機器がこの島に来て機能しなくなったこと。

それをファラメルディアスに打ち明けた矢先、圧力計の頭をした男に襲われたこと。

ファラメルディアスの死と、咄嗟の判断とは言え殺人を犯してしまったこと。

火事に気づき野営地に戻ってみると、ラバナーヌが死んでいたこと。



全てを打ち明けると、モルゲンロートは蹲み込んだまま動かなくなってしまった。

セイヤンが抱き起こし、乾いた地面に寝かせて自分の外套をかけた。


「依頼主のファラメルディアス様が亡くなられた今、捜索を続ける理由はございません。……モルゲンロート様は外傷はないものの、心身共にお疲れのご様子。明日の朝日を待って、島から出ましょう」

セイヤンの提案に、ミーナも翡翠も反論することはなかった。


男2人は火事の難を逃れた毛布と缶詰を跡地から見つけ出し、朝日が昇るまで交代で夜の番をすることにした。

ミーナは自分も番をすると言って聞かなかったが、まずは先に休むように言われて毛布をかけるとすやすやと眠りに落ち、起きる気配はなかった。


01_占い 深夜、翡翠は倒木に腰掛けて空を見上げていた。

ガラス製のアストロラーべを取り出す。今は午前2時だ。


ヘンゼル、ポワゾンが殺され、今日はファラメルディアスとラバナーヌが死んだ。

もはや英国女王のダイヤを探すどころか今晩を無事に生き残れる保証さえ無い。


ポケット水晶を取り出す。
青い球は眩い月の光とおぼろに反射する雲を受けて、地球儀のように斑にきらめいた。

翡翠はふと、昔に仕えていた主人の言葉を思い返す。



翡翠はかつてヨーロッパ小国に、宮廷の楽団員をしていた過去があった。

楽団員といえど儀典ばかりの堅苦しい仕事が嫌になった翡翠は、食事を絶って病を装い、仕事を辞めて国を出た。
今となっては占いや歌や芸で日銭を稼ぐ、気ままな吟遊詩人である。



02_かつては 音楽家でありながら、科学的見地……特に星見の知見があった翡翠は、ある時に王の戯れで「驚異の部屋」に通されたことがあったという。

その部屋は先代のコレクションで溢れ返っていたが、国王はガラクタの物置だと揶揄した。

世界中の奇本を集めた本棚に囲まれ、部屋の中央には水晶でできた大きな地球儀が鎮座し、紺碧に塗られ海とも宇宙とも言えないドーム型の天井には星座と魚の標本が漂っていた。


「地球は、宇宙から見れば青く輝いているのだという。この足元がか? 私には険しい山々と、税に喘ぎながらも必死で生きようとする民しか見えぬ」

王は自嘲気味に笑った。

「王は神ではない。唯の国の代表者だ。空想に囚われず、私の両眼で見えるところまでを治める範囲として、地に足をつけて政務に勤めねばならない。……だから我が国は狭いのだろうがな」



あの青い水晶の地球儀が指すどこかに自分は立ち、死の危機に瀕している。

たったひとつのダイヤのために、用心棒、医者、料理人、依頼主が斃れた。

自分にできることはなんだ?
楽器はマッドとの戦いで壊れた。

残されたものはなんだ?

握っていた水晶を覗き込む。


水晶占いとは、球体に映り出るイメージから未来を見出す占術である。

見出し方に明確なルールや正解はない。
結局のところ、水晶を通して歪んで見える色や形を見ながら、相手の思いや自分の思考を整理する手段に過ぎない。


俺たちは何故恐れているのか――いま、自らの死を間近に感じているからだ。
死に慄くのは、この島に潜んでいる刺客がいるからだ。
4人が殺され、放火までされた。マッドと手を組み、火をつけた人間が未だに潜んでいる可能性がある。ここは危険なのではないか?

しかし、今のところ誰かが闇に乗じて襲ってくる様子はない。
来ないのならば、火をつけた方の刺客はマッドが殺したか、炎に飲み込まれ死んだと思っているのだろうか。

ラバナーヌとは言え亡骸と一緒に寝るのは気持ちの良いものではないし、何よりモルゲンロートが怯えてしまうだろうと移動させようとした時に見た遺体の胸には――正視できなかったが――大きな傷跡があったように思えた。
おそらく刺客が斬り殺したのだろう。

刺客が火をつけた際にすでにラバナーヌが死んでいたのであれば、あのキャンプ地に残っている人間はセイヤンしかいない。自分はミーナと、モルゲンロートはファラメルディアスと外に出ていたのだから。
1人を炙り出すために森に火を放った?


――いや、それどころか、あの時、キャンプ地には誰もいなかった。


翡翠は思い出す。セイヤンはあの朝、見回りの番だった。


03_推理 続け様に思考が押し寄せる。

最初の違和感はこの島に上陸した時だった。
俺たちを雇った貴石屋・侘助が、ファラメルディアスが連れてきたというコーディネーターを見る目がどうも奇妙だった。

初めて見る人間の品定め以上に、あれは警戒の視線だったではないか。

04_回想1 次の違和感は、ガットリングガンを携えた虚無僧、鏘園に襲われた時だった。
初めての襲撃を受け、ヘンゼルとファラメルディアスの号令で俺たちは逃げた。
モルゲンロートは身を挺して捜索隊を守ってくれたヘンゼルを心配し泣き叫んでいた。
彼女が特別泣き虫なわけじゃない。用心棒のヘンゼルや従軍経験のあるファラメルディアスならいざ知らず、俺たち一般人が命の危険に晒されて平静でいられる方がおかしい。

その時、あいつはどんな顔をしていた?
05_回想2 違和感はまだある。
ヘンゼルが殺された時の絶望は半端じゃあなかった。
鏘園を返り討ちにした最強のヘンゼルが、朝起きたら死んでいたんだから。
ラバナーヌが竦み、ファラメルディアスが腰を抜かしていた。
普段から人の死に立ち会う、医者のポワゾンだけが冷静だった。
06_回想3 ……いや、もうひとり棒立ちの男がいた。
思い出した。


あの瞬間、俺は確かに見た。
あいつの顔を。
07_顔 目の前の死を何とも思わない、転がった空き瓶を見るような冷たい目を。




右手に持っていたガラスのアストロラーべに、人影が映った。

振り向くと、セイヤンがにこやかに立っていた。
08_交代ですよ 「お、もう交代ですか?」

「ええ、ゆっくりとお休みください。毛布は昼の火事で燻されて煙かったのですが、無いよりはマシでした。翡翠様もお使いになると良いでしょう」

セイヤンは優しく翡翠の肩に手を乗せた。

「へへ、お気遣いどうも。ところで……」


翡翠が、唾を飲み込んで乾いた笑いを浮かべる。



「ヘンゼルも、鏡か何か持ってりゃあ、俺みたいに気付けましたかね。あんたに殺されるって」

「そうかもしれませんね。でも、最後は同じこと」




09_同じこと セイヤンが翡翠の肩を引き寄せ、ナイフを振りかぶる。
捜索隊の用心棒、ヘンゼルを殺害した凶刃が月夜にぬらりと光った。

瞬間、翡翠はアストロラーべを地面に叩きつけ、セイヤンが刺すより疾くガラスの断面で自分の背後を切り払った。

ガラスの刃がセイヤンの右手を捉える。

咄嗟の翡翠による反撃の勢いに負けて、ナイフは手から弾け飛んだ。
しかし、肉を斬った感触はない。袖の中にある何か硬いものとぶつかり、手に持ったガラス片は粉々に砕けてしまった。

体勢を立て直そうとする翡翠。しかしそれを相手は許さない。

背後から首を掴まれ――


10_銀腕
「がぁっ・・・・・!!」

自分の胸から、銀色の腕が生えた。
一瞬遅れて、血飛沫がそれを真っ赤に染める。
セイヤンの背後から、もうもうと排蒸気が立ち込めていた。

「毛布には睡眠薬を染み込ませていました。ナイフにも即効性の毒がね」

セイヤンが“銀腕”を引き抜くと、肺が血で満たされた。挽き潰された心臓から、大量の血が堰を切ったように飛び出した。

「さっさと帰らなかったから、帰る前に気付いてしまったから、……気付いて抵抗するから、貴方はこんなに苦しまなければならなかった」

ごとん、と水晶が地面に落ちた。
後を追うように、翡翠も頭から地面に倒れ込んだ。



11_死亡 「誰にも、英国にも、このダイヤは渡さない」





川辺に、全身血塗れの男が立っていた。

男は川に入り、サファリハットを水に浸し、それで顔を拭った。
揃いのサファリジャケットを脱ぐと、服と自らの浴びた血をざぶざぶと洗い落としはじめる。


赤黒く染まった右腕が雪がれ、正しい色へと戻ってゆく。

男の上腕から先には、銀色の義手が接続されていた。

皮手袋を填めなおす。


川の水はほんの少しだけ赤く濁ったが、絶え間ない流れはすぐに証拠を消し去っていった。


 






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第20話

本記事は2018年1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります




00_ロゴ
捜索隊の野営地近くで食事の支度をしていたラバナーヌ。

それを一閃のうちに殺害したナルギレは、調理場の火で捜索隊の野営地近くに火を放つ。


炎は煙の渦を上げ捜索隊を追い立てる猟犬となった。
焼け落ちた枝葉が紙吹雪の如く舞い、太い幹が炎の柱と包まれる。


休んでいたファラメルディアスたち捜索隊は、ナルギレの計算通り森の東側へと誘導されていった。




拠点を離れ島の地質調査に出ていたミーナと翡翠も、立ち込めるきな臭さで島の異変に気づいた。



01_立ち込めてきたぞ ミーナが鞄から試験管を取り出すと、数種類の試薬と外気を混ぜて素早く振った。

「翡翠さん酸素濃度の減少と二酸化炭素濃度の上昇を確認しました。加えてごく微量の火薬燃焼の反応を確認。これは」

「んな大袈裟なことをしなくてもわかるさ。どっか燃えてんだろ。鳥は……」


翡翠は空を見る。

上空から火元を見る森の鳥たちは、皆一様に東の空へ飛んでいった。

「……まずいな、拠点の方じゃねえか」

「火薬ということは失火ではなく敵の放火です急ぎましょう!」


身を乗り出すミーナを翡翠は制止した。

「いや、轟々燃やして殺す気ならこの火は弱い。何人いるのか知らないが、これは俺たちを燻り出す気だ。だとすれば……」


二人は慎重に迂回するように戻っていく。



空気に混ざる煙の乾いた臭いが一層強くなるころ、見慣れぬ男が野営地の方を向いて立っていた。



02_こんちわ 赤いマントに星条旗のスカーフ。

大袈裟に折られたブリムのついたテンガロンハットには、安物のゴーグルが掛けられていた。


二人の気配に男はゆっくりと振り向くと、大仰に驚いたジェスチャーをしながらぐにゃりと笑った。



「おっとお? こりゃ計算外だぁ。逸れた羊がいたとはな」


翡翠は男をしっかりと見据える。


意外、喜び、侮りの表情。

おそらく火をつけた方の刺客、またはそれ以外の誰かから、捜索隊は全員野営地にいるはずと情報を受けていたのだろう。
しかし、自分とミーナがいないことを知らなかった。


2対1の状況においても、こちらが非武装であることに嗜虐的な笑みを浮かべながら

腰に提げた鞭でもフリントロック銃でもなく、爆薬筒に手をかけている。



「ああ、お前らの雑な追い立て猟は失敗って訳だ」

恐怖と緊張にミーナが押し黙る横で、翡翠は煽るように言葉を返す。


03_対峙 男の眉根がつり上がり、小鼻が広がる。

コミュニケーションの苦手なミーナにも判る、明らかな不満と威嚇の表情だった。


「ハ、 失敗? お前らはここでこのマッド様に殺されるのに? 」

「マッド? あぁお前、400人殺しのマッドか」


翡翠は名前から即座に相手を特定した。

“愛国者”アルマッド・ハミルトン。
元塗装工の脱獄囚。アメリカ中を放浪しては、子供や老人をいたぶり殺す快楽殺人者だ。


「なあマッド、もうじきファラメルディアスがここに来る。俺たちは逃げる。皆殺しにしたいんだろ?」

「……残念だが俺たちは弱者であっても馬鹿じゃないぜ。 そんなムズカシイ事がアメリカ人にできるのか? おいマッド!」


あえて指を刺し、名前を連呼する。

ガンマンなら十分に射殺を狙える距離で、相手はなお銃には手を掛けない。



「簡単だろうがぁよお!!!!」

マッドは爆薬筒を引き抜き、火をつけ振りかぶった。



「逃げろ!!」


マッドは逃走方向に筒を投げる。

的確な投擲だったが、二人の頭上を飛び越える瞬間、翡翠のバンジョーがそれを打ち返した。

ロビングのような軌道を描いて爆薬は明後日の方向に飛んでいき、茂みの向こうてドウ、と爆発した。



04_逃げろ 「はははザーコザーコ」
翡翠は大袈裟にバンジョーを担いで、尻を叩いてみせた。

「何やってるんです逃げますよ!!」

「てんめええええ!!!!」




05_作戦 直前までの地質調査のおかげか、地の利はミーナと翡翠にあった。


「ハア……ハア……ここまでくれば大丈夫でしょうかもっと逃げますか」

肩で息をしながらもミーナは一息で言葉を繋げる。


翡翠はしばし考えたのち、口を開いた。

「……いや戻ろう。これからまたマッドに近づくぞ」

「何故!? 非合理的で非生産的です無意味です!」

彼女が早口で捲し立てるのは発言が気持ちに追いつかないからだ、ということを翡翠は理解している。

どんな言葉を使っても、それ以上に脳が回転してしまうのだ。


「いいか。あいつは追いかけるのをやめた。 炙り出されるファラメルディアス達を殺すことを諦めていないからだ」

だからこそ、丁寧にゆっくりと諭す。

「あの爆弾の長い導火線を見ただろう? あれは喧嘩に使うシロモノじゃない。じわじわと追い詰めながら、相手がそこに近づく時間を計算して使うためのもんだ。銃も持っていたのに、それでもあいつは爆弾を使った。なんでだと思う?」

ミーナは導かれた答えに恐る恐る口を開く。


「……あれしかないから?」

「そうだ。もしくはあれを使うことに拘っているか……どっちだっていいさ。それを逆手にとって、あいつを殺そう」

殺す。

その言葉にミーナは思わず目を剥く。
学者と吟遊詩人。非武装の二人が、悪辣な快楽殺人者を返り討ちにすることなどできない、そういう表情だ。


怯えるミーナに、それでも翡翠は真剣に作戦を伝えた。


「行こう。ファラメルディアス達を助けられるのは、自由に動ける俺たち以外にない。そうだろ?」

「……合理的です」



06_コロス 殺す。

殺す。殺す。

全員殺す。絶対に殺す。全員殺す。絶対に殺す。


頭の中で何度も唱えたその言葉に、マッドは振り回されていた。

焼け出された捜索隊は早々に爆殺し、お楽しみはあの二人にしよう。

爆風の強い爆弾で、全身の骨を砕いてやろう。
動けなくなったところに、弱い爆薬を巻きつけて少しずつ爆発させてやろう。
丸裸にし、踏みつけて、川に沈め、木に括り、岩を落とし、一晩中可愛がってやろう。



遠くで足音が聞こえる。

見据えた煙の向こうから現れたシルエットは、ファラメルディアスではなく、学帽とバンジョーを携えていた。

激昂に全身が総毛立ち、身を潜めていたことも忘れ、マッドは雄叫びを上げた。

「おまえらああああああああ!!!!」

07_待てコラ 「反転! 頼んだぞミーナ!」

「任せてくださいマッピングは完璧です!」



煙の濃い方に走る。
マッドは今度こそと追いかける。

既知の倒木を越え、既知の小川を渡り、10m先の見えない煙の中でなお、二人は躊躇いなく進み続けた。



「到着しましたここです!」

「おう、焦って飛ばすなよ。これはマラソンだ!」

「分かっています計算通りです!」

身軽な二人は、マッドが追跡できるギリギリのスピードで逃げ続ける。
その道は緩やかに左に曲がり続け、やがて同じ場所に戻る円を描いたコース。

ミーナがこれまでの道すがらと周辺調査の結果したためられた、彼女独自の地図。
そこから選ばれた、今回の作戦に最適な逃走経路だった。


茂みや蔦や濃い煙のせいでそうと見えないが、走りやすい平坦な広場をマッドとミーナ達はぐるぐると追いかけあっていった。


「だあああああああ!!死ねよあああああ!!」


後ろに迫るのは憤怒のマッド。狂ったように爆弾に火をつけ、投げ込んでくる。


しかし待ち伏せ用の爆薬筒は炸裂前に、尽くが翡翠によって打ち返されていった。


「右に!右に!打ち返してください!」

爆破跡で逃走経路が同じだと悟られぬよう、翡翠は出来るだけ円の外側に打ち返していった。


「あと、何本!!」

「恐らく15本!!」

「よし内側入るぞ!」


周る円を徐々に狭めていく二人。
誘導されているとは気づかないまま、マッドは必死の形相で追いかける。


しばらくすると、爆薬筒が少なくなっているのを自覚したのか投擲のペースは落ちていった。

「ケチり始めたな!平均何秒だった!?」

煙と煤に塗れながら、翡翠が叫ぶ。

「全て20秒きっかりです!」

懐中時計を握り締め、爆音に負けない強さでミーナが叫ぶ。


「はは、あいつも几帳面だな。やるぞ!」

二人はさらに外周を狭めていく。


逃走を続けながらも翡翠は絶えずマッドの攻撃を打ち返す。

しかし今度は外側でなく、追いかけるマッドに向けて。

残弾が少ないマッドは好機とばかりに、足元に転がる爆薬筒を再度拾い上げて投げ返す。


「2回目!」
「応よ!」


ミーナの合図に翡翠が応える。
2度投げ返された爆弾は外側に。さっきよりも近くで筒が爆ぜる。
翡翠は吹き飛びそうなポーラーハットを押さえながら、横顔がビリビリと焼けつくのを感じた。



「死ね死ね死ね死ねええええええ!!」

ラリーが倍加し、そこかしこで爆発音が響き渡る。

爆弾魔と翡翠の攻防が続きながらも、円は狭まる。



1周が30秒に。25秒に。

そして20秒に。



マッドがルーチンワークのように足下の爆弾を拾う。

「……あ」

あるはずの導火線がない。


08_爆発 マッドが拾おうとしたそれは、翡翠があえて打ち返さなかった
1周前の爆弾だった。

マッドの眼前で、それは大きく爆ぜた。



09_やれやれ 腰から上が吹き飛んだマッドだったものの後ろから、疲労困憊の二人が現れる。

「……失敗したらあんな事になっていたと思うと、……私たち、よくやりましたね……」

ミーナはへなへなと腰を下ろす。

「帰ったら買い換えなきゃなあ……」

翡翠はバンジョーを見やり嘆息する。

たった一本で全てを退けたそれは、もはや弦をつけた歪んだ鉄の棒と化していた。



「しかし私たちがキャンプから離れていたのは幸いでした」

「マッドは……、俺が「お前ら」と呼んでも違和感を感じていなかった。複数犯なのは間違いないが、その割に俺たちが出掛けていることに気づいていなかった」


翡翠がなぜ自分たちが見逃されたのかを訝しんだ。

思案して空を見上げると、不意に大きな雨粒が顔に当たった。


「……スコールです!」

「天の恵みだな」


雨が煙を洗い流してゆく。

火はじきに消えるだろう。


今はただ、生き存えたことに感謝すべきかもしれない。

 






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原案・文章(マイケル)
記事・管理(バレット)


カメラマン(以下の皆様の写真を掲載させて頂いております)
せーゆ
へい
シュウ

第19話

本記事は2018年1月28日に行われた第3回スチームパンク武装撮影会のストーリーになります





 
00_ロゴ その日、トルコの傭兵ナルギレは茂みの陰から様子を窺っていた。


大英帝国のダイヤモンド奪還を狙うファラメルディアス一行。その拠点の情報をセイヤンから手に入れたマッドの提案で、ナルギレは捜索隊を挟撃することになった。

「お前が追い立てる。俺が全員殺す。ハッハー! イェニチェリにゃ簡単な仕事だろう?」

信念もなく、殺人の快楽と金ために雇われたマッドに手を貸すのは甚だ不本意ではあったが、ナルギレはその作戦に同意した。



イェニチェリ。
17世期のオスマン帝国において規律と最新兵器の導入で栄華を極めていた君主直属の歩兵軍も、産業革命が起こり武器の近代化が飛躍的に進んだ今となっては時代遅れのお荷物でしかなかった。


ナルギレは世襲制に変わり堕落の一途を辿るイェニチェリを抜け出し、暗殺を生業としてきた。

愛する女を残したまま家を捨て、紛争地域に民兵として出向いては人を殺して糊口を凌いだ。

大英帝国が植民地支配を狙い、反乱が絶え間なく起こるパンジャーブで要人暗殺を引き受けた折、共に行動したのがセイヤンだった。


「貴方のその力が欲しい。盗賊からダイヤを守り、アジアを大英帝国の支配から解放するのです」

声をかけられた時は、何かの比喩だと思った。

だがそれが比喩でも冗談でもないことはすぐに分かった。任務を完了したその足で連れてこられた無人島に、ダイヤモンドは確かにあったのだ。



島の中心部、朽ちた祠の地下に通されると、ナルギレは静かに驚いた。

人の気配のない文明の跡地で、眩い照明にてらされたそれは、青く光り輝いていた。


「この部屋が明るいのは蒸気機関によるものではありません。ダイヤと、この島の瘴気で動いています」

部屋の中央に厳かに祀られていたダイヤモンドをセイヤンが手に取ると、部屋の灯りがわずかに明滅した。



01_昔話 「それは、英国女王のダイヤ……!」

「正確には『今のところ英国女王のダイヤ』です。このダイヤはムガル、アフシャール、ドゥッラーニ、パンジャーブの王の手に渡っていきました。そしてその全てを支配した大英帝国に簒奪されたのです」



「クーヘヌール……!」

ナルギレは叫んだ。大英帝国の、そして今、ひとりの男の手に握られているダイヤモンドである。

その名は、ペルシャ語で光の山を指す。


「クーヘヌールとは単なる美しさの暗喩ではありません。……この力を大英帝国に戻してはならない。弱い国は全て淘汰されます。分かりますね?」

今や大英帝国は、オスマン帝国を軍事的にも経済的にも支配していた。

君主を守る家系に生まれながらも衰退を辿っていくジレンマに苛まれて故郷を捨てたナルギレに、セイヤンの言葉は重く響いた。


ナルギレのマスク越しの瞳が動揺から決意に変わるのを、セイヤンは見逃さなかった。



2ヶ月前、セイヤンの指示通りダイヤを狙う若者たちがこの島を訪れた。

皆一様に武装していたが、ナルギレの敵ではなかった。
セイヤンが雇った他の暗殺者たちも、赤子の手をひねるように捜索隊を屠っていった。


そして現在、再び捜索隊が島に上陸。
スパイとして潜入したセイヤンと連携し、隊の壊滅を狙う。

ゆえにこうして茂みに隠れ、一網打尽の機会を窺っているわけだが――。

「~♪」 

視線の先にいるラバナーヌは朝餉の準備に夢中で、こちらに気づくことはなかった。

故郷の恋人と同じ位の歳だろうか。
鼻歌まじりに魚を捌き、川の水を火にかけ、野菜を茹でている。

その背中は、あまりに無防備すぎる。

2ヶ月前に殺した、欲望にギラついた目をしている人種にも、仲間の死をも厭わず命懸けでダイヤを奪還せしめんとするような人種にも思えなかった。

何回かの逡巡のあと、ナルギレはラバナーヌの正面から姿を現した。

02_お料理中 誰かの靴先が見え、仲間かと顔を上げたラバナーヌは戦慄した。

腰に大きな刀を提げた仮面の男、ナルギレが立っていた。

「……キャッ!?」

「騒がないことだお嬢さん。苦しんで死にたくはないだろう」

低くとも努めて優しい声でナルギレが忠告する。


03_失礼する 「……あなたが島の刺客なのね……!」

「ああ、だがあまり気乗りしない。仕事とはいえ、無抵抗の女子供はな」


「……?」

ラバナーヌは二・三言のうちに、自分の前に立つ男の心を垣間見た。

殺される者への哀れみ以上の同情を感じた。
それとも、私を誰かと重ねているのか。


何故だか非常に不愉快な気持ちだった。



「……ええ、なら私も仕事に戻らせて頂戴。お鍋が煮えているの」

ラバナーヌはあえて顔を逸らす。火にかけられ、グラグラと煮えている鍋を顎でさした。


「その料理は命を賭してまですることなのか? 」

「当たり前よ。人は食べなければ死んでしまうわ。食事は命をつなぐ行為だもの」


ラバナーヌは持っていたフォークを強く握りしめる。


「あなた、「なぜここに」って思ったでしょう。 「こんな呑気そうな女が」って」

ナルギレは何も答えない。

「私はね。いま、自分の意思でここにいるの。ダイヤも探せないし、剣も振り回せない。 でも、それができる人を支えるのが私の冒険なの」



04_勇者 フォークと鍋の蓋を剣と盾のように構えたラバナーヌは、この島に立つひとりの勇者だった。


「なるほど。ありがとう」

信念に応えるかのようにナルギレもヤタガンを抜く。


「kazan kaldirma(ならばここで鍋をひっくり返してやろう)」

05_一撃 風のような一閃。

振り払った刃は、ラバナーヌの横腹から胸までを肋骨ごと深く切り裂いた。






06_村焼き 血に塗れた刀身を綺麗に拭ったあと、ナルギレは落ちていた油壺と酒で地面に線を引き、線の上に黒色火薬を撒いた。



自分の考えが甘かった。この島に来る略奪者は全て敵だ。

焚き火の木杭を線の上に突き立てる。
地面を炎が走り、もうもうと煙を上げながら林の方へ向かってゆく。


敵は殺さねばならない。それが仕事だ。

しかし、それは正しいのだろうか。




07_退去 炎は答えを待たずに進む。
蔦を、茂みを燃やし、勢いを増して捜索隊を追い詰める炎の壁となった。






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